"年商一兆円の父にワインをかけた婚約者" 第1話
京の空を鋭く切り裂く層ビル群の元に、その格式と威容を誇るグランドホテルは鎮座していた。
寄せには数千万クラスの製サルーンが滑り込み、磨き抜かれたガラスの回転扉のでは、ベルボーイが折り目正しい会釈を繰り返している。
その完成された景のに、らかに違いな台のが紛れ込んだのは、午の差しがビルに揺れる帯だった。
ぎしぎしと微かにきしむようなサスペンションの音を響かせ、艶の引けた古い国産セダンがロータリーへと入ってくる。以のモデルだろうか。入れこそされているものの、バンパーの角にはさな擦り傷があり、ボディのシルバーは経劣化でくすんでいる。
ベルボーイの眉がほんの瞬、わずかにいたのを、助席の篠原綾は見逃さなかった。 すぐにプロの微笑みで覆い隠されたが、その無言の品定めが、綾の胸の奥にさな棘のように刺さる。
「着いたぞ、綾」
運転席からりてきたのは、髪混じりの髪をきっちりと櫛でえた父、宗郎だった。 にまとっているのは、量販で買ったとわれるな紺のスーツ。流の細とはほどい仕てだが、皺ひとつなくアイロンが当てられており、父の頑固なまでの几帳面さが滲みている。
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「お父さん、の運転、丈夫だった? 疲れてない?」 「なに、首都がし混んでいただけだ。した距じゃない」
宗郎は穏やかに笑い、擦れかけた革靴の紐を結び直した。 その平静な横顔を見つめながら、綾の胃はきりきりと痛んでいた。
今は、婚約者である神埼圭吾と、その族との初めての顔わせのだった。
圭吾とは、友の結婚式の次会でりった。 創業半世紀を超える老舗「クレスト百貨」の御曹司であり、現は専務取締役を務めている。育ちの良さをじさせる柔らかい物腰と洗練された佇まいに惹かれ、交際が始まって。先、圭吾からプロポーズを受けた。
綾は自分のいちについて、嘘をついたことはない。ただ、余計なことを言わなかっただけだ。 父は州でさな貿易商を営んでおり、母はくにくなり、父のひとつで育てられた、と。 圭吾は「どんな柄かなんて関係ないよ。僕は綾自をしているんだから」と甘く囁いてくれた。その言葉を信じていた。
けれど、ホテル最階にあるフレンチレストランのエントランスにを踏み入れた瞬、綾の淡い期待はやを浴びせられることになる。
エントランスの待スペースには、すでにの姿があった。
ひときわ目を引くのは、のてっぺんから爪先までのハイブランドで固めた女性――圭吾の母、神埼貴恵だった。
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首元には粒のエメラルドが揺れ、指元にはそうなプラチナリングがいくつもっている。 その隣には、オーダーメイドのスーツを着こなした圭吾。そしてしれた所に、居悪そうにスマートフォンをいじっている圭吾の姉、織がいた。
「あら……いらっしゃいましたのね」
貴恵がちがり、げさな抑揚をつけて声をかけてきた。 その声は鈴を転がすように澄んでいたが、瞳の奥には値踏みをするような粘り気がある。 貴恵の線は、宗郎のすり減った革靴から始まり、入れはされているものの毛羽ちの見えるズボンの裾、物のポリエステルネクタイへと、舐めるように移していった。
「が随分と混雑していたようですわね。このあたりの空気、おにはしすぎたかしら」
「お待たせしてしまい、誠に申し訳ありません。首都の流でし取ってしまいまして」
宗郎は静かにをげた。 卑屈になるわけでもなく、かといって傲になるでもない、丁寧な礼だった。 だが、その平穏な態度が、貴恵の神経をわずかに逆撫でしたようだった。
「お母様、わざと遅れたわけじゃないんです。途で――」 綾が父を庇おうとをきかけたが、圭吾がわざとらしい笑顔でそれを遮った。
「いいんだよ綾、僕たちもさっき着いたところだから。
お義父さん、いところわざわざありがとうございます」