"年商一兆円の父にワインをかけた婚約者" 第2話
「圭吾君、今はお招きいただき謝する」
宗郎が会釈を返すと、圭吾の元が瞬だけ緩んだ。しかし、その空気を切り裂くように貴恵がを鳴らした。
「さあ、こんなところでち話もみっともありませんわ。へ入りましょう。個を押さえさせてありますから」
貴恵はハイヒールの音を理のに響かせ、度も宗郎を振り返ることなく歩きした。 その背を見つめながら、綾はたくなった自分の指先をく握りしめた。
案内されたのは、京の並みがパノラマのように広がる、こので最も眺望の良い特別な個だった。 には宝を散りばめたような夜景が広がり、テーブルには器とクリスタルグラスが然と並んでいる。
支配がうやうやしくワインリストを差しすと、貴恵はそれを流し読みしながら、何気ない調でをいた。
「伺いましたわ、篠原さん。福岡でさな貿易会社をなさっているとか」 「はい。細々と、輸入の仲介をやっております」 「最は景気も定ですし、零細はどこも変だと聞きますけれど、お商売の方は順調でいらっしゃいますの? 従業員の方のお料を払うのも、苦労なんじゃありません?」
言葉遣いこそ丁寧だが、その底にあるのは「おの稼ぎはどの程度なのか」という骨な品定めだった。
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同席している支配ので、平然とそんな質問を投げかける無神経さに、綾の背筋にや汗が流れる。
「お様で、取引先と社員に恵まれまして。借を背負うこともなく、なんとか全員に料を遅配せず渡すだけで精杯の毎ですが、ありがたいことだとっております」
宗郎は運ばれてきたチェイサーのを含むと、淡々と答えた。 飾らない、実直な返答だった。 だが、貴恵はその言葉を、額面通りの「貧乏の限界」と受け取ったらしい。元にややかな笑みを浮かべた。
「まあ、そうですの。借がないだけでも派なことですわね。……でも、私どもとしましては、切に育てた跡取り息子が、結婚のせいで余計な苦労を背負い込むようなことだけは、どうしても避けたいのですの」
「母さん、頼むからそういう言い方はやめてくれよ」 圭吾が声で窘めたが、その瞳に本気のりはなかった。母親の無礼を止めるポーズだけを取り、自分は全な所にっている。そんな圭吾の態度を、綾は信じられないいで見つめた。
貴恵は息子の言葉などにも介さず、テーブルのに両肘をついて宗郎を見据えた。
「単刀直入に申しげますわ。あの子たちの居について、篠原さんはどうお考えですの? 私どもクレスト百貨の板を背負うですから、最でも港区の築タワーマンション、それもペントハウスあたりを用してやるつもりですけれど。
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篠原さんの方でも、くらいはある程度ご負担いただかないと、釣りいというものが取れませんでしょう?」
ある程度、という言葉に、貴恵はこれ見よがしに力を込めた。
綾の顔から血の気が引いていく。 港区のペントハウスのといえば、数千万円はらない。福岡で堅実にさな会社を営んでいるだけの父親に、そんなをぽんとせるはずがないとっていて、恥をかかせるために言っているのだ。
「お母様、居のことは圭吾さんとでの丈にった所を――」 「綾さん、あなたは黙っていらっしゃい」
貴恵はたい線で綾を射抜いた。
「親同士の話です。それとも何かしら、あなたのご実は、娘を嫁がせるにあたって銭もす気がないとでもおっしゃるの?」
「貴恵さん」 宗郎が、く落ち着いた声でを挟んだ。 その表には取り乱した様子も、りのも見当たらない。静かなの底のような瞳だった。
「子供たちがこれからのを歩む所です。もしが望むのであれば、私にできる限りのことはしてやりたいと考えておりますよ」
「できる限り、ですって?」 貴恵は吹きすように笑った。
「その『できる限り』がどの程度のものなのか、私には見当もつきませんわ。正直に申しげますけれど、うちの圭吾は今まで何自由なく、最のものだけに囲まれて育ってまいりましたの。