"年商一兆円の父にワインをかけた婚約者" 第3話
お嫁さんをもらって、その実のせいで友たちに恥をかかせるような活をさせるわけにはいきませんのよ」
「母さん、もういいだろう。事を頼もう」 圭吾がメニューをきながら言った。その声には、母親の傲さを楽しんでいるような、奇妙な余裕すら混じっていた。
「お義父さん、母はし言葉がストレートですが、悪気はないんです。ただ、僕たちの将来を本気で配してくれているだけで。……まあ、実際のところ、居の資援助については、せる額を正直に教えてもらえると助かります。僕の側でもローンの計算がありますから」
悪気がない。 その言が、綾の胸をく抉った。 目ので自分の父親が、着ているや仕事の規模を理由に踏みにじられているのに、この男は「悪気はない」で済ませようとしている。 綾のが刻みに震え始めた。
「圭吾さん、あなた――」 「綾、いいんだ」 宗郎がそっとを挙げ、娘を制した。
「ご配には及びませんよ。私の娘がからし、選んだ男性です。世のの誰よりも幸せになってほしいと願うのは、父親として当然のこと。圭吾君に銭な苦労をさせるような真似は、決してさせません」
宗郎の言葉には、揺るぎないみがあった。 だが、使い古されたスーツ姿の初老の男がそれをにしたところで、貴恵のにはみっともない虚勢にしか聞こえなかった。
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「言葉だけなら何とでも言えますわね。だけでマンションが買えるなら苦労はしませんこと」 貴恵はあからさまにを鳴らし、運ばれてきたオードブルにフォークを伸ばした。
テーブルのには、息の詰まるような苦しい沈黙がりていた。 芸術のように美しく盛り付けられたキャビアやフォアグラのムースも、砂を噛むように気ない。 宗郎は礼儀正しくフォークを使い、皿皿を静かにわっていたが、貴恵の棘のある線は絶えなく宗郎に向けられていた。
「ところで篠原さん、こういったグランメゾンにはあまりいらっしゃいませんの? ナイフとフォークの使い方が、なんだかしぎこちないように見えますけれど」 「ええ、滅に伺いません。娘のれの席ですから、し緊張しているのかもしれませんな」 「まあ、正直でよろしいですわ。慣れない所で背伸びをなさると、で恥をかくだけですから」
貴恵は勝ち誇ったように微笑み、グラスに注がれたのワインを揺らした。
そのだった。 しでも空気をらげようとしたのか、宗郎がグラスのをもうとを伸ばした。 だが、宗郎の指先が、わずかにグラスの縁に引っかかった。
ことん、と鈍い音が響き、グラスが横に倒れた。 のテーブルクロスのに透なが広がり、そのたい流れが、あろうことかテーブルのに置かれていた貴恵のバッグへと向かって流れていった。
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「きゃっ……!?」
貴恵の甲い鳴が個に響いた。
「申し訳ありません! 私の注です」 宗郎は即座にちがり、自分のリネンナプキンをにして、バッグに触れようとした。
「触らないでッ!」
貴恵は狂ったような切り声をげ、宗郎のを激しく払い落とした。 乾いた衝撃音が個に響き渡る。
「何するのよ、この貧乏が! 汚いで触らないでちょうだい!」
「変失礼いたしました。すぐに乾いた布を――」 「拭けば済むとってるの!? このバッグがいくらするとってんのよ! エルメスの特注品よ! 今季の限定カラーで、に入れるのにどれだけ苦労したか! 滴ひとつで染みになるのよ! あんたの汚い収全部かき集めたって買えやしない代物よ!」
貴恵の形相は、先刻までの品なマダムのものとは完全に別物だった。 血った瞳、引きつった唇、剥きしの憎悪。 部の隅に控えていたソムリエや支配が青ざめて駆け寄ろうとしたが、貴恵の気配に気圧されてを止めた。
「お母様、やめてください! 父はわざとやったわけじゃありません!」 綾がちがり、震える声で叫んだ。
「あんたは黙ってなさい! 自分の父親の無作法を棚にげて、何が気なを利いてるの! 弁償しなさいよ! 今すぐここで品を弁償しなさい!」