"19年間の嘘を暴いた1枚のDNA鑑定書" 第16話
モニターが示すバイタルサインは、彼女の命の灯が今まさに消えかかっていることを告げていた。
「急性脳血だ!急いでオペの準備を!」
当直医の叫び声が緊迫した空気を切り裂く。 医療スタッフたちが糸乱れぬきで応急処置を始した。
だが彼らの表は様に暗い。 この病院で、これほど篤な脳科術を執刀できるだけの腕を持つ医師はたったしかいなかった。 そして運なことに、その病院の至宝である脳科部は張でだったのだ。
「誰かの病院から応援を呼べないのか!」 「今夜はどこも杯です!このままでは……」
病院が絶望に顔を歪ませたそのだった。 の護師が、何かに気づいたように声をげた。
「院!くのホテルで、国際神経科学会が催されているはずです。もしかしたら、あの先が……」
その言葉は、暗に差し込んだ筋のだった。
病院は藁にもすがるいで学会事務局に連絡を入れた。 そして世界な脳神経科の権威であり、神のを持つとまで称される若き才医師に、緊急の執刀を請した。
その才医師こそ、柊真由の末の息子、柊慧だった。
連絡を受けた慧は学会の懇親会を抜けし、まるで散歩でもするかのような落ち着き払った取りで病院の救急来に到着した。
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病院と医療スタッフたちは救世主の到来に堵の表を浮かべ、彼に駆け寄って々とをげた。
「慧先!よくぞお越しくださいました!先だけがこの患者を救えるのです。ゴールデンタイムが刻刻と迫っています!」
病院の痛なまでの懇願にも、慧はじることなくただ渡されたカルテに線を落としていた。
その線が、患者氏名『神崎芳』という文字を捉えた瞬。
彼の元に氷のようにたい、しかし確かな笑みが浮かんだ。 そのあまりにも静な姿に、周囲の者たちは戸惑いを隠せない。
慧はゆっくりと顔をげ、マジックミラー越しに集治療のを覗き込んだ。
無数のチューブに繋がれ、呼吸器を装着されての境を彷徨っている老婆の姿。
、まだ幼い自分たちの母親を、「汚れた血」と罵り嵐の夜へと追いした、あの祖母のれな末がそこにあった。
今や彼女は、その「汚れた血」を引く孫の、そのつに命運を委ねなければならないのだ。
「先、術の準備はよろしいでしょうか?麻酔科医はすでに待しております」
病院が焦りを滲ませながら再度尋ねた。
しかし慧は、にしていたカルテをまるでゴミでも捨てるかのようにくのテーブルのに投げた。 そしてのポケットに両を突っ込むと、静かだがそのにいる全員の鼓膜を震わせるほど断固とした声で言い放った。
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「術はしません」
その言葉に、病院はを疑った。
「ば、馬鹿な……。先、今すぐ術をしなければ、この患者は確実ににます!医の倫理を説くヒポクラテスの誓いをお忘れになったのですか!」
慧は、その激に満ちた問いかけに、たい線で病院を真正面から見据え返した。
「忘れてなどいませんよ。ヒポクラテスの誓いは苦しむを救うためにある。の皮を被った悪魔を救うためのものではない」
彼の声には片の迷いもなかった。
「あの女は罪のないくの老たちから血を吸い、自分の娘同然だったはずの嫁と、まだまれぬ孫たちをためらいもなくの淵へと突き落とした、紛れもない犯罪者です」
「医学な見から見てもの能性は極めていですが、それ以に倫理な観点から判断して、私がこのを汚してまで救う価値は微もない」
慧の衝撃な宣言に、そのにいた医療スタッフたちは凍りついたようにきを止めた。
病院はあまりのことに言葉を失い、ただをパクパクとさせるだけだった。 「し、しかし……それでも患者は、患者では……」
辛うじて絞りされたその言葉を、慧は背で受け止めた。 彼はもはやこの所に用はないとばかりに、救急来のへと歩きしながら最の言葉を残した。
「どうしても救いたいのであれば、当直医ので、その罪を裁かせるためだけに救いなさい。