"妻の手術日に3000万奪った夫の代償" 第16話
都の喧騒からしれた、桜並が美しい閑静な通りに、軒のさなカフェがオープンした。 ガラス張りの扉には、の繊細な文字でこう記されている。
『ESPOIR』
フランス語で『希望』をする言葉だ。 内にを踏み入れると、挽きたてのコーヒーのばしいりと、焼き菓子の甘い匂いが、訪れるを優しく包み込む。 陽がたっぷりと差し込むるい空。壁には穏やかな景画が飾られ、カウンターには季節のが憐にけられている。
そのカウンターので、柔らかなリネンのエプロンを着け、ききとした笑顔でコーヒーを淹れている女性がいた。 私の娘、紬だ。
病魔は、完全に彼女の体からった。 定期な検診の結果も良好で、医師からは完全寛解の太鼓判を押されている。 抗がん剤で失った髪は以よりも艶やかさを増して、今は肩まで届くほどに伸びている。 その頬は健康な血に染まり、瞳にはかつての苦悩のなど微もじさせない、力いが宿っていた。
私はの隅にあるお気に入りの席に座り、堂島ホールディングスの会であることを隠し、の客として娘が働く姿を眺めるのが課となっていた。
マスター。いつもの。
私がそう言うと、紬は「はい、お父さん」と悪戯っぽく笑いながら、杯のコーヒーを運んでくる。
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彼女が淹れるコーヒーは、世界のどんな級のものよりも、私のを温めてくれた。
返還された千万円の保険。 紬は、そのを切自分のためには使おうとしなかった。 「あのたちをいすから」と、彼女はそのの部分を匿名で、ガン患者を支援するNPO団体に寄付した。
そして残ったわずかなと、私がしだけ援助した資を元に、このカフェをいたのだ。
『自分の力で、もう度しいを歩きたいの』
そう言った娘の決を、私はから誇りにった。
カフェは元の々の憩いのとして、しずつ気を集め始めていた。 常連客とのない会話を楽しみ、しいメニューの発にを悩ませ、忙しいながらも充実した々を送る紬の姿は、見ているだけで私の胸をくさせた。
れたの午。 私がいつものようにコーヒーをんでいると、カフェのドアがカランと軽やかな音をてていた。
の若い男性が、し照れくさそうに入ってくる。 の頃は代半ばだろうか。誠実そうな、優しい目をしている。
いらっしゃいませ。
紬が柔らかな笑顔で彼を迎える。 男性はメニューを見ながら、し戸惑ったように言った。
あの、コーヒーにあまり詳しくないのですが……おすすめはありますか?
でしたら、今のブレンドはいかがですか? 酸がなくて、とてもみやすいですよ。
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紬の丁寧な説に、男性はほっとしたように微笑んだ。
じゃあ、それをつお願いします。
ので交わされる、穏やかで温かい空気。 私はその景を、ただ静かに目を細めて見つめていた。
復讐というい暗いトンネルを、私たちは確かに通り抜けたのだ。 そしてその先には、こんなにも優しく、希望に満ちた景が広がっていた。
男性はカウンター席に座り、紬がコーヒーを淹れる元を興そうに眺めている。
おなんですね。
ありがとうございます。でも、まだまだ勉なんです。
弾むようなの会話。 私のは、議なほどの平穏に満たされていた。 結への憎しみは、いつのにかい過の来事のようにじられた。
彼らは自らが犯した罪の代償を、今もどこかで支払い続けているのだろう。 だが、それはもはや私のすることではない。 私の役目は、終わったのだ。
私はそっとコーヒーカップを置き、伝票をに取ってちがった。 紬とあの青の邪魔をするのは、野暮というものだろう。
のドアをけると、の柔らかなが私の頬を撫でた。 桜並のびらが、祝福するようにヒラヒラとい落ちてくる。
振り返ると、ガラス越しに娘の幸せそうな笑顔が見えた。 それで分だった。
復讐は終わった。 そして、本当のが、今ここから始まるのだ。
私は穏やかなの差しのを、未来へと続くを、ゆっくりと歩き始めた。