"家出と呼んだ警察を私は許さない" 第3話
植鉢を持ちげると、いつも通り鍵がある。
「航平? 帰っとるんか」
戸をけ、暗いにがり框の気をつけた。 返事はない。 居も、台所も、航平の机がある奥の畳半も、静まり返っていた。 駄箱を見ると、航平が履いていったはずの古い黒いズックがそのまま置かれており、いスニーカーは戻っていなかった。
「まだ遊んどるんやろか……」
最初は、そうった。 普段は寄りなどしない子だったが、品の靴が嬉しくて、友達に自でもしているのだろうと。 だが、柱計がを回り、が完全にのに包まれても、引き戸のく音はしなかった。
半。 がぽつぽつと、トタン根を叩き始めた。
の背筋に、たいものがった。 傘も持たずにをびした。 息を切らしながら、のる坂を駆けり、航平の同級のを片っ端から叩いて回った。
「すいません! 田さん、うちの航平、来てませんやろか!」
「え? 航平くん? いや、今は見とらんよ。学でもあんまり話さんかったって、うちの息子が言うとるけど……」
「さん、航平は!?」
「見とらんなあ。どうしたん、まだ帰っとらんの?」
誰も見ていなかった。 誰のにもっていなかった。 脚がくなり、を流れるがの突っかけを濡らした。 髪は額に張り付き、息が喉の奥でヒューヒューと鳴る。
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坂のの酒、駄菓子、公園の隅の公衆便所まで探し回ったが、いスニーカーのすらなかった。
夜のを過ぎた頃、の角にある乾物の先で、同じにむ藤原チヨとくわした。 チヨは軒で宿りをしながら、血相を変えてってくるを見て、眉をひそめた。
「さん、どないしたんや、そんなずぶ濡れで」
「チヨさん! 航平を見いへんかった!? 夕方からずっと戻らんのよ!」
チヨは瞬、線を泳がせた。 その瞳の奥に、奇妙な揺がったのを、当のは見落としていた。
「あ……ああ、航平ちゃんか。そういえば夕方頃やったかなあ。表の通りのバスで見かけたで」
「バス!? 誰と!? ひとりで!?」
「いや……らん男のと緒やったわ。背のい、綺麗な格好したおじさん。航平ちゃん、そのと何やら笑いながら、バスに乗り込んでいったで。友達んとこでもくんやないの?」
「笑って……? そんなはずない! あんな子、見らぬに付いていくわけがない!」
「でも、見たんやから仕方ないやろ。無理やり連れてかれたでは全然なかったで」
チヨのその言葉を聞いた瞬、のからすっと血の気が引いた。 らない男。笑いながら乗ったバス。 が分からなかった。航平に親戚などいない。くのりいなど当たりもなかった。
はそので、駅の交番へ駆け込んだ。
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ずぶ濡れのままび込んできたに、机に座っていた若い巡査は骨に嫌そうな顔をした。
「落ち着いてください、お母さん。でしょう」
「なわけありません! 今の朝まで、あの子、あんなに嬉しそうに学へったんです! らん男とバスに乗ったって目撃したがおるんです、連れられたに決まってます!」
机を叩いて叫ぶを、巡査はなだめるようにを振って制した。
「目撃者の方も言ってるんでしょう、笑ってバスに乗ってたって。無理やりなら騒ぎになりますよ。頃の子供はね、親に遣いもらえないとか、学で叱られたとか、そんな理由でふらっとをるんですよ。特にこういう町の貧しいとこの子はね、京へって靴磨きでもして当ててやる、なんてすることがよくあるんだ。になれば腹を空かせて帰ってきますよ」
「うちの子は、そんな子やありません! 調べてください、お願いですから探してください!」
巡査はため息をつき、引きしから捜索願の用を枚引っ張りしただけで、ちがろうともしなかった。
「応預かりますけどね、事件性があると判断されないと、警察も掛かりにはけませんから。とりあえず今夜は帰って、温かいご飯でも作って待っててあげなさい」
その言葉に、の全がりと絶望で震えた。
誰も信じてくれない。 この町の貧しい未の息子どもがひとり消えたところで、この国の警察にとっては取るにらない「常の些事」