"家出と呼んだ警察を私は許さない" 第4話
でしかなかったのだ。
夜通し、のかりをつけたまま待った。 だが、航平は帰ってこなかった。
翌朝、さらに奇怪な事実が判した。 学の担任教師がに駆けつけてきて告げたのだ。 航平は昨、学に登すらしていなかった、と。
が朝、品のい靴を見送り、笑顔でを振ったあの直から、航平は学とはまったく別の方向へ消えっていたのだ。
茫然自失のまま、は航平のさな勉机の引きしをけた。 教科とノートが几帳面に並べられた引きしの奥から、使い古されたさな赤い表のノートがてきた。 表には輪ゴムが幾にも巻き付けられていた。
輪ゴムをし、ページをめくった。 そこには、航平の拙い、しかし丁寧な鉛の文字で、付と数字がびっしりとき込まれていた。
『 田のおばちゃんのお使い +円』 『 聞配達の伝い +円』 『 空き瓶拾い +円』 『 酒の荷運び +百円』
ページの番には、線で囲まれた計額が記されていた。
『千百円 あと円』
ノートを握りしめたまま、はそのに崩れ落ちた。 喉の奥から、獣のような嗚咽が漏れた。
いしたのだ。 先、の通りを航平と緒に歩いていた、鰻の先から漂ってくるばしいタレの匂いに、がついってしまった独り言を。
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「美しそうやなあ。お母ちゃん、いっぺんでええから、あそこの特の鰻を腹いっぱいべてみたいわ」 そう言って笑った自分の言葉を、この子は覚えていたのだ。
の鰻の特鰻は、杯千百円だった。 の誕は、。 あとヶ。あと円で、お母ちゃんに鰻をご馳できる。 そのために、誰にも言わず、放課や休みのにだらけになって銭を拾い、所の伝いをして、貯めていたのだ。
「航平……航平……っ!」
ノートを胸に押し当て、は畳に額を擦りつけて泣き続けた。 なはずがない。母親を捨てるはずがない。 この子は、自分の命よりも母をってくれていたのだ。 そのさな体に、あの、体何が起きたというのか。
朝ののでねていた真っいスニーカーの残像だけが、網膜の裏に焼き付いてれなかった。
*
それからののは、狂気との彷徨だった。
の仕事を解雇されるのも構わず、は息子の写真を持って町を歩き回った。 「この子を見ませんでしたか」 「の、森航平という子です」 港湾の倉庫、荷揚げで働く男たち、駅の改札、隣町の。 すれ違う々の袖を掴み、写真を突きした。 だが、返ってくるのはたい線と、迷惑そうな舌打ちばかりだった。
当の本は、度経済成の総仕げとばかりに、凄まじい気のでを造り替えていた。
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坂の町にも再発の音がづき、古いバラックをブルドーザーが押し潰し、しいビルや速が建設されていく。 を向いて突っる社会の底が抜けたような片隅で、貧しい未が叫ぶ「消えた子供」の声など、誰のにも届かなかった。
警察の態度は淡を極めた。 藤原チヨの「笑ってらない男とバスに乗った」という証言が、捜査の初を完全に狂わせていた。 警察の類には『自発』の印が押され、事件としてのアクティブな捜査は数ヶで打ち切られた。 貧困庭のがグレてをた、ただそれだけの処理だった。
自分ので探すしかなかった。 は、寄りのない子供やを保護しているという内の養護施設や孤児院にもを運んだ。 そのに、神戸の郊に広な敷を持つ児童福祉施設『双葉育園』があった。
応接でを迎えたのは、園の神義徳という代の男だった。 仕ての良い背広を着込み、縁の鏡の奥から穏やかなを湛えた瞳を向けてくる、物腰の極めて柔らかな物だった。 元では篤志としてられ、恵まれない孤児たちを引き取り育てる「昭の聖者」と聞に持て囃されていた男だ。
神は、が差しした航平の写真を鏡をしてじっくりと見つめ、く同するように溜息をついた。