"七年消えた母と五千万の温室" 第6話
卓の端には、作業を着た父が座っていた。 目のに黒々とした隈を落とし、椀を持つがかすかに震えている。 私が席についても、父は度も目をわせようとしなかった。
「あなた、今は午、町の造成事の現でしょう? の運転、気をつけてね」 雅美が焼き魚の皿を父のに置く。
「あ、ああ……分かっている」 父は掠れた声で答え、鮭のを箸で突くだけで、ほとんどに運ぼうとしない。
「私もね、今はししなきゃいけないのよ」 雅美が私に向き直り、エプロンの紐を直しながら言った。 「来週のお父さんの還暦祝い、さんたちにおしする仕しの焼き鯛をね、港町の老舗に直接頼みにこうとって。で片はかかるかしら」
私の臓が、トクンとさくねた。
片。 往復と打ちわせを含めれば、最でも半からはを空けることになる。
「そうなのですね。お祝いの準備、々と変ですね」 私は努めて無関を装い、噌汁をすすった。
午半、父が現監督用のライトバンに乗って社した。 続いて午、雅美が丁寧にお化粧をし、品なベージュのアンサンブルにを包んで自用でかけていった。
扉が閉まり、のエンジン音が完全に宅の向こうへと消える。
私は計を見た。
広告
午分。
タイムリミットは、く見積もっても。 私はちがり、勝へ向かった。
駄箱の隅、普段は使われない古い鍵掛け。 そこから、昨夜確認しておいた温の予備キーを素くす。
裏庭は、昨夜の豪を吸ってひどく濘んでいた。 スニーカーがに沈む触に顔を顰めながら、私は温のにった。
錆びついた京錠にキーを差し込む。 カチリ、とい属音が鳴り、い鎖が解かれた。
波板ガラスの引き戸を横に滑らせると、むっとした淀んだ空気が押し寄せてきた。 湿った腐葉の匂いと、乾きのセメントのアルカリ臭が混ざりった、特異な悪臭。
温の央には、昨夜父が取り憑かれたようにいつくばっていた、あの直方体のコンクリート台座が横たわっている。
昼のので見ると、その異様さはさらに際っていた。 表面は決して滑らかではない。 プロの官職が仕げたような均さはなく、急ごしらえでコテを叩きつけたような無数の凹凸と、角が崩れた跡が々しく残っている。
まるで、何かを急ぎで、無理やり蓋をして封じ込めたかのような仕事だった。
だが、私の目はこのコンクリートを今すぐ素で割ることではない。 そんなことは能だ。
私が探すのは、にここで起きた「激しい争い」
広告
の痕跡だ。
昨夜、父はこう叫んでいた。 『雅美の言う通り、あのを務に入れさせてくれれば、あんなことには』
あの夜、母はこの温の敷内で、に追い詰められたのだ。 突発な暴力、あるいは計画された罠。 が、命を奪われるほどの修羅が起きたのだとすれば、の繊維や装飾品、あるいは所持品の部が、どこかに弾けんでいるはずだ。
私は温の奥、乱雑に積みげられた古い製パレットと園芸資材のへ向かった。
雑がい茂り、クモの巣が張った棚の。 の袋、破れたビニールシート、底の抜けたプラスチックのプランター。 埃とにまみれたガラクタを、ゴム袋をはめたでつずつ慎にどかしていく。
カサリ、と何かがく音がして息を呑むが、逃げすトカゲのだった。 額から汗が滴り落ちる。
パレットの最段、壁との僅かな隙に、黒く変した素焼きの植鉢が押し込まれているのが見えた。 にい赤レンガがつ、わざとらしく乗せられている。
ただの廃品にしては、自然な隠し方だった。
私はレンガを退かし、植鉢を引っ張りした。 には、湿り気を帯びた黒いが半分ほど詰まっている。 スコップを使うはない。私は素でそのを掻きした。
センチほど掘りめた、指先に「コツン」
とい触が当たった。
ではない。プラスチックでもない。 もっとたく、緻密な属の触。
のから引きずりしたのは、が入り込んで汚れた、ジッパー付きのさな凍保用ビニール袋だった。