"傷だらけの天使" 第6話
さんは嬉しそうに目を細めた。その笑顔を見ていると、私の胸の奥がトクトクとを帯びていくのが分かる。
「あのさ、さん」 わず名で呼んでしまったことにハッとしたが、彼女は特に気にした様子もなく、私に線を向けた。 「彼氏とか……いないんですか? こんなに綺麗で料理もななら、絶対モテるでしょうに」 私の問いかけに、さんはぴたりと箸のきを止め、ふっと表を曇らせた。 そして、さく息を吐きすと、しだけ俯いた。
「……いないわよ。彼氏なんて、ずっといたことないもの」 「えっ、ですね」 「ううん、でもなんでもないの。私ね……実は、ちょっと複雑な庭に育ってね」 そう言いながら、さんはぽつりぽつりと、自分のいちについて語り始めた。
彼女の両親、そして兄もすべて医師という、絵に描いたような「エリート医師の系」だった。 両親の背を見て育った兄は、当たりのように優秀な成績を収め、親の期待通りのを歩んできた。さんもまた、幼い頃から「医者になること」を宿命づけられて育ったという。 「幼い頃は、両親も優しかったのよ。でも、学にがり、兄との学力の差が目に見えて現れるようになると……パパもママも、私に対して急にたくなったの」 『お兄ちゃんを見習いなさい』 『どうしてあなたはお兄ちゃんみたいに勉ができないの?』 テストで百点を取らなければ褒めてもらえず、もし点を取ろうものなら、「そんな点数じゃご飯をべる資格はない」
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と夕を抜かれることも珍しくなかったという。
「そんな庭にとって、私は族の恥だったのよ。両親が望むような華やかな科……たとえば皮膚科や科にんで、実の病院を継ぐか、あるいは政財界の御曹司とお見い結婚して格をげること。それが私の義務だったの」 だが、さんが選んだのは、臭い「形科」のだった。 事故や怪で苦しむ患者を自分ので治したいという純粋ないから選んだそのは、両親にとっては「最も恥ずべき選択」でしかなかったらしい。
「今でも、両親は私に定期に『お見い話』を持ってきて、医者を辞めさせて結婚させようとするの。『あんな来損ないの医者なんて、さっさと辞めて庭に入れ』ってね……」 さんはしそうに目を伏せ、さく震えるで温かいお茶のカップを包み込んだ。
私は、彼女が抱えていたあまりにもく、孤独な過をり、言葉を失った。 彼女がいつも病院で見せてくれる、あの太陽のように温かい笑顔の裏に、どれほどの涙と苦悩が隠されていたのか。像するだけで、胸が締め付けられるような痛みがった。
「……俺になんて話してくれて、ありがとうございます」 私はそっと、彼女の震えるの甲に自分のをねた。 さんは驚いたように目を丸くし、それからふわりと、涙を堪えるようなおしい笑みを浮かべた。
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「ううん、なんだか、あなたには議と話したくなっちゃったの。変よね、患者さんに自分の音を吐くなんて、医師失格かも」 「失格なんかじゃありません。さんは……すごく頑張ってきたんだから」
私の言葉に、さんはもう隠しきれなくなったように、粒の涙をポロポロとこぼし始めた。私はちがり、彼女の隣に移すると、そのさな体をそっと自分の胸に引き寄せ、優しく抱きしめた。 彼女の細い肩が、私の腕のでさく震えている。 私はただ黙って、彼女の背を優しく撫で続けた。
それからというもの、私とさんの距は、以とは比べ物にならないほど縮まっていた。 病院の診察だけでなく、休みのに待ちわせてカフェにったり、映画を見にったり。お互いの過やを語りううちに、私はいつのにか、彼女に対して恋以の特別なを抱くようになっていた。
しかし、平穏なはそうくは続かなかった。 あるの昼がり、アパートで台所の片付けをしていると、さんのスマートフォンが激しく鳴り響いた。 画面を見た彼女の表が、瞬にして凍りつく。
「もしもし……お母さん」 話の向こうから聞こえてくる声までは聞こえないが、さんの返答のトーンを聞くだけで、相が誰で、どんな内容を話しているのかが痛いほど伝わってきた。