"見えない星" 第7話
背から、く温かい声が投げかけられた。 はる子がハッと息を呑んで振り返ると、そこには作業着姿の田がっていた。 その顔には、隠しようもないい配のが浮かんでいた。
「田さん……」
はる子の声は掠れていた。田はゆっくりと歩み寄り、はる子の元に置かれた荷物のと、赤く腫れがった彼女の瞳を見つめた。
「どうされたのですか? なぜ、そのような荷物の理を……」
問いかけられた瞬、はる子の胸ので張り詰めていた最の糸が、音をてて千切れた。 彼女は両で顔を覆い、堰を切ったように激しく泣き崩れた。
「私……解雇されたんです。誰かが私の悪い噂をに報告して……今で、終わりだって……」
田の表が、瞬にして凍りついた。 頃の穏やかで好々爺然とした老の面は瞬に消えり、そのは、数の修羅をくぐり抜けてきた徹な最経営者のそれへと変した。 しかし、涙に暮れるはる子は、を向いたままその劇な変化に気づくことはなかった。
「……理由は、何と説されたのですか」
田の声はく、静かであったが、その底にはをうようなりの響きが宿っていた。
「勤務に……田さんとおしゃべりばかりしてサボっていたとか……お客様にタメをきいてホテルの品位を落としたとか……。でも、私、本当にそんなことしてません……! 仕事は絶対になんて抜いてなかったのに……!」
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はる子の訴えを聞きながら、田のが作業のポケットので、ギリリと音をててく握りしめられた。 く濁りのない拳に青筋が浮かぶ。 この、誰よりもく勤し、誰よりも隅々までモップをかけ、誰よりもく客にをげていたはる子の姿を、最もくで見届けてきたのはならぬ田自であった。 その彼女が、現の怠と嫉妬の犠牲となり、当に切り捨てられようとしている。 経営者として、そしてのとして、これ以の条理と屈辱を許容することは、田の矜持が断じて許さなかった。
はる子は震えるでエプロンのポケットからさなメモ帳とペンを取りし、涙で滲む文字で何かをき付けた。そして、その片を丁寧にちぎり取ると、両で田へと差しした。
「田さん……いでしたけれど、本当にお世話になりました。田さんとお昼休みに々なことをお話しできたが、このホテルでの私の唯の救いでした……。どうか、お体を切にして、きしてくださいね」
差しされたさなメモには、はる子の自宅の話番号と所が、丁寧な跡で記されていた。 田はその片を両で恭しく受け取ると、まっすぐにはる子の濡れた瞳を見据えた。
「はる子さん。しのだけ、待っていてください」
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「え……?」
「必ず、私から連絡を入れます。これは約束です」
田の声には、頃の温な老とは全く異なる、揺るぎない絶対な力が宿っていた。 しかし、い絶望の底に突き落とされていたはる子には、その言葉の真のみを理解することはできなかった。彼女はただ、老の優しい気休めだと受け止め、力なくさく微笑み返すことしかできなかった。
私物を抱え、力ない取りではる子がホテルの通用からっていくのを、田は通のから微だにせず見送っていた。 彼女の背が完全に界から消えた瞬、田は作業のポケットからスマートフォンを取りし、迷うことなくつの番号をプッシュした。 呼びし音が回鳴るか鳴らないかのうちに、相が受話器を取った。
「私だ」
田のく研ぎ澄まされた声が回線を震わせた。
「……田はる子さんの解雇処分について、決定に至る全経緯を今すぐ私に報告しろ」
話の向こうで、課の息を呑む音がはっきりと聞こえた。
『えっ……? だ、誰だね、君は……?』
「田だ。グループ取締役会の、田次だ」
受話器の向こう側から、ガタガタと物が激しく倒れるような異常な物音が響いた。
『か、会……!? な、なぜ会がそのような末端の契約社員のことを……』
「無駄を叩くな。言い訳はだ。今すぐ、すべての経緯を洗いざらい報告しろ」
田の声音に宿る、容赦のない絶対なりに圧迫され、課は完全に転した声で、しどろもどろに説を始めた。