"10年逃亡した父の未開封400万" 第4話
ドア越しに、植田の吐く息の音が聞こえるほどかった。
「……とくに、靴箱や押し入れの奥のゴミだよ。お母さんから、頼まれてたんだ。『私がんだら、真由美に見せないで処分してほしい箱がある』ってね」
全の産毛が逆った。
見せないで処分してほしい箱。
植田の目は、ドアの向こうから、今まさに私がけたこの箱を捉えているかのように、言葉を紡いでいた。
「真由美ちゃん、けておくれ。今すぐ、その箱を運んでやるから」
ガチャリ、と鍵穴の奥で、何かが引っかかる音がした。 植田のには、鍵が握られている。 なぜ、彼がこの部の鍵を持っているのか。
私は震えるで、証とピアスをポケットにねじ込み、全靴をダンボール箱のへと押し戻した。
「……すみません、植田さん」
私はドアチェーンをかけたまま、ドアをわずか数センチだけけた。 チェーンの隙から、植田の顔が見えた。 髪交じりのい髪に、焼けした赤ら顔。 い目尻の皺の奥にある瞳が、笑っていなかった。 その線は、私の顔ではなく、私の元——玄関のたたきの隙を、射抜くように凝していた。
「なんだい真由美ちゃん、チェーンなんかかけて。くさいじゃないか」
「あの……埃がすごくて、も汚れていて恥ずかしいので。片付けは、自分でやりますから」
「自分でやるって言ってもねえ。
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女つじゃ運べないものもあるだろう。それに、ほら……お母さんの遺品だ。あんたが見たら、辛くなるようなものだってある」
植田の目が、すっと細められた。
「もう、何かけたのかい?」
臓が止まるかとった。 私は無識に、背にあるダンボール箱を自分の体で隠すようにちふさがった。
「いいえ。まだ、古いをゴミ袋に詰めているだけです」
「そうかい」
植田はそう言いながら、ドアを側からし引くように力を込めた。 チェーンがピンと張り、属の擦れる嫌な音が響く。
「お母さんはね、真由美ちゃん。あんたのことを本当に事にってたよ。あんたにだけは、世のを被せたくないって、そればかり言ってた。だからね……余計なものは、余計な記憶と緒に、綺麗さっぱり消してしまうのが番なんだ」
植田の調は穏やかだった。 しかし、その声の底には、逆らうことを許さない絶対な威圧が沈んでいた。
「、もう度軽トラで来るよ。の夕方には、部にあるダンボール、全部私が持ってってやるからね。いいね?」
植田はそう言うと、無理やりドアを引っ張るのをやめた。 そして、ポケットにを突っ込み、鍵の束をジャラリと鳴らした。
「夜には気をつけなさいよ。この団も、もうほとんどが残っていないんだから」
音が、階段を段、段とりていく。
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そのい靴音が完全に消えるまで、私はドアに背を預けたまま、くことができなかった。
部に戻ると、はすでに沈み、内はい青のに包まれていた。 気をつけるのが怖かった。 かりをつければ、から私が何をしているのか見張られているような気がしたからだ。
私は暗ので、スマートフォンのライトだけを頼りに、たたきに座り込んだ。
ポケットから取りした、百万円の定額貯証。 そして、母の砕けた真珠のピアス。
なぜ、母は植田に「私に見せるな」と頼んでいたのか。 植田は、この箱のに何が入っているかをっているのだ。 父の靴が入っていることを。 百万円がここにあることを。
——お母さんは、あんたにだけは世のを被せたくないって、そればかり言ってた。
植田の言葉が、ので気に反響する。
世の? を被っていたのは、私と母ではないのか? 「逃げた父親の娘」として、私は、をげてきてきた。 就職でも、結婚でも、ろ指を指され、のを歩かされてきた。
もし、父が逃げていなかったのだとしたら。 もし、この百万円が盗まれたものではなかったのだとしたら。
あの、私たちが耐え忍んできた「獄」は、体何のためのものだったのか?
私はスマートフォンの画面をタップし、検索窓に指を滑らせた。
【 奥摩 失踪】 【佐伯健】
何もてこない。 警察は事件として扱わなかったのだ。