"10年逃亡した父の未開封400万" 第13話
台の音が、くの波のように唸っている。
分。 分。 無音の空が続いた。
テープが空回りしているだけかとい、指を止ボタンに伸ばしかけた、そのだった。
『……ひどい様だな、澄子さん』
く、くぐもった男の声。 植田だった。 の、今よりも張りがあり、々しい若さを残した植田の声。
『こんなに血を流して……をやっちまったのか』
続いて、荒い呼吸音とともに、母の引き攣った声がイヤホンを満たした。
『あのが……あのが、私を捨てててくって言ったのよ!』
『……』
『義をしてやったの。そしたら、いずりながら玄関へこうとして……靴箱にしがみつくから、仏壇の炉で……』
炉。 あのい、青の塊。
『澄子さん、息が止まってるよ』
植田のえ切った宣告。
『……んだの?』
『ああ。蓋骨が割れてる。救急を呼んでも遅れだ。警察を呼ぶしかない』
『嫌!!』
母の切り声が、鼓膜を突き破らんばかりに響いた。
『警察なんて呼んだら、私が殺しになっちゃう! 真由美はどうなるの!? 犯罪者の娘にして、私のをこれ以めちゃくちゃにする気!?』
『しかしな、澄子さん——』
『植田さん、あなた言ったじゃない。私のことが好きだって。あのの悪い役たずと別れて、俺と緒になろうって、先週も集会所の裏で私を抱きしめたじゃない!』
息が止まった。 ロッカーのたいスチールに、額を押し当てた。
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母と、植田。 は、父が事故に遭うから——。
『伝ってよ、植田さん。伝ってくれなきゃ……あなたが部に押し入ってきて、夫を突きばして殺したって、遺にいて私もぬわ』
『な……何を馬鹿なことを!』
『私にはできるわよ。町内のみんなが、どっちの方をするか試してみる? 毎真面目に働いてるれな妻と、女に先たれてふらふらしてる町内会。どっちが信じられるとう!?』
い沈黙。 の音だけが、のあいだにり注いでいた。
やがて、植田のく、いため息が落ちた。
『……軽トラを回してくる。裏の階段の球は、俺が叩き割っておく』
『おは……会社からの補償の証は、どうするの?』
『そのままにしとけ。に引きせばがつく。あいつがを持って女と逃げたことにするんだ。女のをめちゃくちゃにして、あいつが逃げた既成事実を作れば、警察は民事の失踪だと決めつけて本気で捜索なんかしやしない』
『健さんは……どこへ運ぶの?』
『4号棟の裏の、古い浄化槽だ。来、への切り替え事で完全にコンクリートで埋め戻されることになってる。あそこなら、は誰も掘り返さない』
カチッ。
今度こそ、テープが完全に巻き終わった。 自止の械音が、私のの奥で、鉛の銃弾のように弾けた。
全てが繋がった。
なぜ、父の全靴が靴箱の奥にあったのか。
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あの夜、を割られた父は、靴を履く暇などなかった。 植田が父の遺体をシーツに包んで運びした、母は父が「履いて逃げた」ことにするため、靴を隠した。 だが、靴底には、父を引きずりろした団裏の湿った赤がこびりついていた。 捨てれば見つかる。 だから【燃ごみ】と偽り、ものあいだ、元に封印し続けたのだ。
そして、あの百万円。
【預入額:百万円】
母は、を使えなかったのではない。 あの証は、植田を脅し続け、共犯の鎖で繋ぎ止めておくための、母の「首輪」だったのだ。 「あなたが裏切れば、この証をして警察にく」と。
母は被害者などではなかった。 夫を惨殺し、を脅迫し、町内会を共犯者に仕てげ、娘のをに浸しながら、「劇の聖母」として君臨し続けた——酷な怪物だった。
午分。
の空はどす黒いに覆われ、再びポツポツとたいがり始めていた。 夕暮れのが、取り壊しを待つ4号棟を墓標のように包み込んでいる。
民のち退きがほぼ完した団には、がつもない。 窓という窓がベニヤ板で塞がれ、敷の周囲には事用の仮囲いフェンスが張り巡らされていた。
私は黒いリュックを背負い、フェンスの切れ目から敷内へとを踏み入れた。
ぬかるんだが、スニーカーの底にく絡みつく。
4号棟の裏。 い茂った雑の向こうに、黄いち入り禁止テープで囲まれた画があった。