"私の命を八千万円にした夫の末路" 第5話
私は洗面台の蛇をほんのし捻り、チョロチョロと音をてた。 そして、わざとし掠れた声をした。
「……ええ、修さん。今、コンタクトしてたの。急ぎの用?」
ドアのの気配が、瞬だけ止まる。
「いや……別に。ただ、の着替え、まだしてもらってないとってな」
「ごめんなさい。すぐがって用するわ」
「……ああ。そうしてくれ」
靴が廊のフローリングを擦る音が、ゆっくりとざかっていく。 リビングの方へ戻ったことを確認して、私は止めていた息を気に吐きした。
肺が痛い。 膝が笑って、そのに崩れ落ちそうになるのを、洗面台の縁を両で掴んで耐えた。
修は、疑っている。 いや、彼ら全員が、すでに「計画の最終段階」に入っているからこそ、私の些細なのつつに過敏になっているのだ。
洗面台の鏡をもう度見た。 唇をく噛み、血の気を呼び戻す。
怯えているはない。 、あのに乗せられてしまえば、本当に終わる。
私は脱所の鍵を静かにけ、音を忍ばせて階の寝へと向かった。
◇
夜半。
造の全体が、い湿気を吸い込んで軋む。
隣のベッドから、修のいいびきが聞こえていた。 彼は夕、普段は滅にまない缶チューハイを本空けていた。 自分の罪悪を麻痺させるためか、それともの朝に向けた緊張を紛らわせるためか。
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私は寝返りを打つふりをして、い掛け布団を静かにねげた。
パジャマのには、黒いジャージのズボンをすでに履いている。 靴を履き、忍びで寝をた。
階段の軋む段を記憶している。 段目と段目は踏んではいけない。そこを踏むと、階のの寝の真でギィと甲い音が鳴る。
段目から気に段目へ跨ぎ、音もなく階へりった。
玄関の。 暗の、並んでいる靴のシルエットが見える。
私の履き古したスニーカー。 の幅広のコンフォートシューズ。 レナが脱ぎ捨てていった、派なヒール。 そして、修のビジネスシューズ。
私は、修が今夜着ていたスーツの着にを伸ばした。 玄関脇のコート掛けに無造作に掛けられている。
を擦りわせる音すらてないよう、指先だけでポケットの内側を探る。
のポケット――ティッシュと、のスマートキー。 のポケット――銭入れ。
そして、内ポケット。
指先が、カサリとい片に触れた。
引き抜いて、玄関の元灯の微かなオレンジのにかざす。
レシートだった。 の表面に、粗いインクで印字された文字。
【オートパーツ解体業】 【王子美町……】 【付:202699 21:14】
々の、夜。
品名欄には、きでこう殴りきされていた。
『ダイハツ・軽用 ブレーキホース式(古・劣化品指定) ¥1,500』 『領収・』
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血の気が、サッと引いた。
「古・劣化品指定」――?
千百円。 私の命の値段は、千万円の保険に対して、たった千百円の古の劣化したブレーキホースだったのか。
しかも、わざわざ「劣化品」を指定して買っている。 最初から、破断させる目で。 の負荷に耐えきれず、油圧が抜けるように仕組むために。
りよりも先に、激しい嘔吐が込みげてきた。 元をで押さえ、喉の奥からせりがる酸っぱい胃液を無理やりみす。
まだだ。 これだけじゃりない。 警察に駆け込んだところで、「ただの古い部品を買っただけだ」と言い逃れされる能性がある。 夫が「妻のの修理をく済ませようとしただけ」と主張すれば、事件にすらならない。
あの。 そして、このが抱えている「本当の数字」を暴かなければならない。
私はレシートをスマホのカメラで音をてずに撮し、元のポケットに正確な角度で戻した。
向かう先は、廊の突き当たり。 くなった義父の、今はが使っている「斎」だ。
は毎晩、眠薬代わりにい精神定剤をんで寝ている。 だが、油断はできない。
引き戸の溝に埃が溜まっているのか、けるに微かにシュルシュルと擦れる音がした。 臓が縮みがる。 数秒、そので静止する。 ……奥の寝から、寝息以の音は聞こえない。
部に入り、戸を背でピッタリと閉めた。