"毎月100円を振り込む名医の20年" 第6話
私が構えると、仁は笑を浮かべた。 だが、その唇は微かに震えていた。
「寝ただと? 嘘をつくのはだな、君は。……父親が起きていることくらい、見れば分かる」
仁の線が、すりガラスの奥の黄いかりを射抜くように向けられた。 そして、私の胸ぐらを掴むかのような勢いで、顔をづけてきた。
「昼、君の父親は……ので何か言っていなかったか?」
「何って……」
「しい真似はやめろ!」
仁の声が、押し殺したりで裏返った。 昼のファミレスで見せた、あの尊な態度は完全に崩壊していた。
「あいつが、何かを持ちしていないか? 古い封筒や、切れ、あるいは……カセットテープだ。当たりがあるだろう!」
カセットテープ。 その単語がた瞬、私の背筋にがった。 通帳のことではない。 仁が本当に恐れているのは、別の「物」だ。
「……りませんよ、そんなもの。昼、あなた方が『の程をれ』と父を追い払ったんじゃないですか。今更なんの用なんですか」
「拓君、君は何も分かっていない」
仁はコートの内ポケットにを入れた。 取りされたのは、い封筒だった。 みがある。目で百万円の束だと分かるみ。
それを、仁は引に私のシャツの胸元へと押し込んできた。
「これで、を打て。綾乃との破談の切れだ。百万円入っている。……その代わり、あの男が隠しているものをすべて私に渡せ。
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今夜にだ」
「ふざけるな!」
私は封筒を払いのけた。 アスファルトのに落ちた封筒から、帯封のついた万円札が滑りし、灯の暗いのに散らばった。
「で横っ面を叩けば、何でもい通りになるとってるのか!? 父を科者呼ばわりしておいて、自分から夜に嗅ぎ回りに来て……父が何をしたっていうんだ!」
「科者だからだ!」
仁が叫んだ。 その声は、もはや理性の箍がれていた。
「、を轢いて刑務所に入ったのはあいつだ! 法律も、世にも、内修が犯なんだよ! それを今更蒸し返して、私の理事就任を邪魔する気か!? あの欲な老いぼれめ……毎のでは飽きらず、娘の結婚にまで寄しようとしおって!」
ガララッ!
突然、激しい音をてて玄関の引き戸がいた。
のから現れたのは、父だった。 古いサンダルを履き、には本の錆びたバールが握られていた。
「……崎先」
父の声は、底から響くようにかった。 バールの切っ先が、アスファルトのの散らばった万札を指している。
「ぶりのご挨拶が、随分とお派ですな」
仁のきが、完全に凍りついた。 見かれた瞳に、らかな恐怖のが浮かぶ。 昼のファミレスで見せた蔑みの表は微もなく、まるで神と対面したかのように、仁の喉がひくりと鳴った。
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「修……貴様、約束を破る気か」
「約束?」
父は歩、からへた。 擦り切れた作業着の裾が、夜に揺れる。
「約束を破ったんは、あんたの方やろ。……今、あの席で、あんたは何て言うた? 『科者のような貌』……そう言うたな」
仁の顔から、急速に血の気が引いていった。
「それは……妻や綾乃ので、関係を悟らせないための……」
「違うな」
父は首を横に振った。 その目は、徹な刃物のように仁の臓を刺し貫いていた。
「あんたは、本気でそうっとるんや。も経って、自分が本当に清廉潔な名医で、わしがただの汚い犯罪者やと、本気で信じ込んどる。……自分の吐いた嘘に、自分自が酔い痴れとるんや」
「黙れ!」
仁が叫び、元の万札を踏みつけながら詰め寄ろうとした。 だが、父がバールをわずかに持ちげただけで、仁のはピタリと止まった。
「帰れ、崎先。……あんたの顔を見とると、にんだ妻の顔をいす。胸糞が悪うて吐き気がするんや」
「修、待て! あれを……あのテープをどこへやった! まだ持っているんだろう!? 警察に持ってく気か!? 効はとうに成しているんだぞ! 今更蒸し返したところで、誰もおなんかの言うことを信じるものか!」
父は何も答えなかった。 ただ、たい線で仁を見据え、それからゆっくりと背を向けた。
「拓、入れ。……戸締りをしろ」
「修! おい、修!!」
仁の切り声がに霊する、父は私をのへ引きずり込み、引き戸を力任せに閉めた。