"毎月100円を振り込む名医の20年" 第8話
(忘れることなんて、できるわけがない……)
。 私が物ついたから、父はずっと所のから「あの科者の」と蔑まれてきた。 学の運会でも、学の卒業式でも、父はいつも庭の隅の、にひっそりとっていた。 油と埃にまみれた作業着を着て、誰とも目をわさず、申し訳なさそうにを縮めて。
そのすべてが、あの崎仁という男の代わりだったというのか。 そして今、その男の妻と娘は、私たちの「活の匂い」を嘲笑い、ゴミのように踏みにじっていったのだ。
許せない。 激しいりが、臓腑を焼き尽くすように煮えたぎった。
だが、どうやって戦えばいい? 効はとうに過ぎている。 警察にったところで、のひき逃げ犯として役した男の戯言として処理されるだけだ。 相は、域の医療界を牛る名士。来には医師会の名誉理事に就任する権力者だ。
(証拠だ……)
崎仁が、あそこまで血相を変えて探していたもの。 父が絶対にを割ろうとしないもの。
カセットテープ。
私は靴を履き、静かに玄関の引き戸をけた。 夜の。 宅はんだように静まり返っていた。
にて、私は父の軽トラへと向かった。
崎仁がこのを嗅ぎ回るに、私が先に見つけさなければならない。 父が、命を削るようにして隠し持ってきた「何か」
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を。
軽トラの運転席に潜り込み、ドアを音をてずに閉めた。 内には、昼嗅いだ古の埃と、湿ったウレタンの匂いが充満している。
ダッシュボードのを漁った。 検証のファイル、自賠責保険の証、古いガムテープの芯、錆びたペンチ。 どこにも、テープのようなものは見当たらない。
座席の、フロアマットを剥がした。 と砂利が散らばっているだけだ。
(どこだ……どこに隠す……?)
軽トラの内は狭い。隠せる所など限られている。 グローブボックスの裏側、ヒューズボックスの隙、サンバイザーの裏。 指先を真っ黒にしながら探したが、何つてこない。
焦燥で息が荒くなる。 計の針は半を回っていた。 の空がみ始めれば、父が起きてくる。
私は助席に移し、へたりきった座席を見つめた。 昼、あの通帳が挟まっていたシートの隙。 ウレタンがボロボロに崩れ落ち、鉄のスプリングが剥きしになっている。
(……待てよ)
私は座席の座面を力任せに持ちげた。 軽トラの座席は、エンジンルームへのアクセスハッチを兼ねている。 シート全体がガバッとに倒れ、真に埃まみれのエンジンヘッドが現れた。
気はめ切っている。 オイルの染みと、幾にも積もった黒い埃。 そのエンジンのすぐ脇、助席の元に当たる鉄板のフロアに、自然な箇所があった。
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防音用の黒いアスファルトシートが、角く切り抜かれている。 そのに、のさな鉄板が当てがわれていた。
作業で加されたような、歪な鉄板。 隅は、錆びついたプラスネジで止められていた。
臓がねがった。
載具の袋から、錆びたドライバーを引っ張りす。 ネジに差し込み、力を込めて回す。 ギギッ、と嫌な属摩擦の音が内に響いた。 本、また本。 最の本をした、の甲を鉄板の角で擦り、血が滲んだが、痛みなどじなかった。
鉄板を剥がした。
フレームの空洞部分、断材のグラスウールが詰め込まれた隙に、それはあった。
ジップロックのような透なビニール袋に、幾にも厳に包まれた方形の物体。 埃ひとつ侵入させないように、端がしっかりとシーラーで圧着されている。
震えるでそれを取りした。
袋のに入っていたのは、のひらサイズの台の械。 の、ソニー製の古いカセットデンスケ――ポータブルテープレコーダーだった。 そしてその横に、もうつ。
プラスチックケースに入った、本のカセットテープ。 TDKの、分テープ。
インデックスカードには、父の几帳面な跡で、こうかれていた。
『平成未 崎仁氏トノ対話 控ヘ』
見つけた。 崎仁が、魂を売ってでも奪いりたかったもの。
父が、自らのを担保にして握り潰してきた、悪魔の証。