"毎月100円を振り込む名医の20年" 第13話
「収まってないだろ!」
私も歩も引かなかった。 父の胸倉を掴まんばかりに詰め寄る。
「親父は、あいつらにで踏みにじられて悔しくないのか!? 『科者』って言われて、ヘラヘラ笑ってをげて……毎百円を恵んでもらって、それでを終える気なのか!? 母さんは、そんな親父の姿を見るためにんだんじゃないぞ!」
「母さんの名をすな!!」
父のが、私の頬を張った。
バチン、と乾いた音が響いた。 痛くはなかった。 ただ、父ののひらの、あのゴツゴツとした、油とタコだらけの皮膚の触だけが、を持って頬に残った。
父の肩が、激しくしていた。 打った本のが、震えていた。 その目から、堪えきれなくなった涙が、幾にも刻まれた皺を伝って零れ落ちた。
「……悔しくないわけ、ないやろ」
父の声は、掠れ、擦り切れていた。
「悔しくて……けなくて……毎晩、あの男の顔をいしては、首を絞めるを見てび起きてきたんや。……だがな、拓」
父は力なく膝をつき、アスファルトのに崩れ落ちた。
「あの、わしはに目が眩んだんや。母さんを助けたいやったとしても、を轢いた悪党の片棒を担いで、嘘の自供をして警察を騙したんや。……わしのはな、あのからずっと、真っ黒に汚れたままなんや。あの男を裁く資格なんて、このわしにあるわけがないんや……!」
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それが、父のの沈黙の正体だった。 崎仁への恐怖でも、諦めでもない。 自らもまた「嘘の取引」にを染めてしまったという、消えない罪悪。 その呪縛が、父をあの狭い軽トラのに、閉じ込め続けていたのだ。
私は、アスファルトに蹲る父のに、ゆっくりとしゃがみ込んだ。 そして、その汚れた、節くれったきなを、両でしっかりと包み込んだ。
「資格はあるよ、父さん」
朝のが、ビルの隙から差し込み、父の髪混じりのを照らしていた。
「父さんは、母さんのためにを被った。でもあの男は、自分の保のためにをに突き落とした。……とほどの差があるよ。僕にとっては、父さんが世界で番誇らしい父親だ」
父のきなが、私のので微かに震えた。
「こう、父さん。来週の曜、あのグランドホテルへ。……で、あの百円を返しにこう」
父は顔をげなかった。 だが、私のを握り返すその指先に、微かな、しかし確かな力が込められたのを、私はじていた。
決戦の曜まで、あと。 歯は、もう誰にも止められない速度で噛みい、回転を始めていた。
曜の夜、内部にあるグランドホテルの搬入は、排気ガスの気と厨から漂うゴミの異臭が淀んでいた。
層階の「鳳凰の」では、管内医師会名誉理事就任と崎記病院創周の記晩餐会が佳境を迎えているはずだった。
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折、のコンクリートの梁を伝って、オーケストラの華やかな演奏の音と、招待客の拍が微かに震となって落ちてくる。
その通用の真向かい、廃棄段ボールと医療用リネンのコンテナが積まれた暗いスペースに、台の軽トラックがエンジンを止めてまっていた。
父のスバル・サンバー。
荷台には、昨まで町の裏を回って集めた段ボールの束が、麻縄で几帳面に字に縛られて井くまで積まれている。 体全体がの埃と赤錆に覆われ、洗など度もされたことのない鉄板が、搬入の蛍灯のいを鈍くね返していた。
運転席に座る父・修は、あのファミレスに着てったのと同じ、襟の伸び切ったグレーのポロシャツを着ていた。 膝のには、あの緑の「ぱるる」の通帳と、本の黒い油性ペンが置かれている。
助席に座る私のスマートフォンが、く震えた。
綾乃からのメッセージだった。
『父は今、各界の来賓への挨拶回りを終えて、専用で先に帰宅するため駐へ向かった。母はのサロンで歓談。逃げは塞いである』
「……父さん」
私が声をかけると、父はゆっくりと目を細め、静かに頷いた。
「こか、拓」
父は鍵を回した。 キュルルル、というけたたましいセルモーターの音の、ボロボロの排気管がドッドッドッと湿った音を響かせて目を覚ます。