みかん小説
本棚

"義父を八年看取った夜、手切れ金は三万円" 第4話

『……すまない……。としこ……。おまえに……どれだけの、くるしみを……背負わせたか……。わしは、わかって、いた……。ぜんぶ……みえて、いたんだ……』

テープの向こうで、源造が泣いていた。 をすする音と、ベッドの軋む音が混じる。

『……あいつらの、まえでは……喋れぬ、ふりを……するしか、なかった……。そうしなければ……わしは、とっくに……あいつに……しゅういちに……ころされて、いたからだ……』

殺されて、いた。

その言葉のを脳が処理できず、私の考は完全に止した。

イヤホンから流れる声は、激しい呼吸と共に続いた。

『……はちねん、まえ……。わしが……たおれたのは……のうこうそくの、発作では、ない……。

あのばん……しゅういちが……とうきょうから、もってきた……栄養ドリンクを……のんだあと……わしの、が……うごかなく、なったんだ……。

あいつは……わしの、枕元で……わらって、いた……。

「これで、おも……ただの、づるだ」と……』

の血が、逆流するような寒気が私を襲った。

の、あの夜。

は突然、珍しく級な栄養剤の瓶を実に持ち帰り、「親父、たまには体にいいものをめ」と源造に渡していた。

その、源造はで倒れ、救急で運ばれたのだ。

あの、当直の若い医師は「血圧性の脳梗塞の疑い」と診断した。 だが、それは病気などではなかった。

が、実の父親に何かをませたのだ。

テープの声は、さらに恐ろしい事実を吐きし始めた。

広告

『……しゅういちは……わしの、たいしょくきんも……おんきゅうも……ぜんぶ、うばう気だった……。

としこ……。あいつには……おんなが、いる……。

じゅうよんねん、まえ……。このに、でいりしていた……そうじの、パートの……えみこ、という女だ……。

ふたりの、あいだには……男の、ガキが……いる……』

歳。

男の子。

私のの芯が、鈍器で殴られたように痺れた。

、私たちが妊治療を完全に諦め、修が「もう子供のことは忘れよう、きていこう」と私を抱きしめた、あの

あの、修はすでに、の女に子供を産ませていたのだ。

『……しゅういちは……そのガキを……の、跡取りに……すると、いっている……。

わしの、恩も……毎、こうざから……あいつが、ひきだして……その女の、マンションの……ローンに、消えていた……。

としこに……わたされていた、は……わしの、じゃ、ない……。あいつが……おを、ただ働きさせるための……えさ、だったんだ……』

涙すら、なかった。

景が、馬灯のように脳裏を駆け巡った。

真夜に源造が粗相をした、申し訳なさそうに私の顔を見つめ、声にならない声で私のを握りしめていた義父の目。

あれは、痴呆による徘徊でも、単なる老の涙でもなかった。

すべてを理解しながら、息子の悪魔のような企みをりながら、私に真実を告げられず、私のを汚させ続けていたことへの――血を吐くような懺悔だったのだ。

広告

『……としこ……。にげろ……。

わしが……しんだら……あいつらは、おを……すてる……。

だが……ただで、でていっては……ならん……。

ぶつだんの……さんだんめ……。みぎがわの、引きしの……奥の、いたを……はずせ……。

そこに……鍵の、あながある……。

池ボックスに……いれておいた、鍵を……させ……。

わしが……のこせる、すべてだ……。

あいつらに……円も……わたしては……ならん……。

としこ……。おまえが……わしの……ほんとうの……』

そこで、プツリと音声が途切れた。

サーッという空のノイズだけが、私のに流れ続ける。

私は両を覆ったまま、暗で激しく呼吸を繰り返した。

。 私のは、体何だったのか。

子供が産めないと罵られ、親族の嘲笑に耐え、夫の「慈」という名の鎖に縛り付けられ、最は実の親を毒にかけた男の共犯者に仕げられ、排泄物の処理をさせられていた。

そして今、使い古した雑巾のように放りされようとしている。

私の胸の底から、今まできてきて度もじたことのない、黒く、たく、巨な炎が静かにち昇るのをじた。

しみはんだ。 絶望も消え失せた。

残ったのは、ただつ。

あの男たちのを、社会に、法に、そしてとして、々の片すら残さず完膚なきまでに叩き潰すという、絶対な決だけだった。

私は掛けのポケットから、あのさな鍵を取りした。

かりに透かしてみる。

真鍮製の、古びた鍵。

源造の言葉が、の奥に霊していた。

『仏壇の段目、側の引きしの奥の板をせ』

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: