"義父を八年看取った夜、手切れ金は三万円" 第8話
だけで、静かに歳をとっていこう』
慈い夫の顔。 涙を浮かべて私のを握りしめた、あの温もり。
あれは、私の傷を労わったのではなかった。 美子の妊娠が発覚し、私に子供を産ませる必が完全に消えったからだったのだ。
。 私は、悪魔の飼育箱ので、ただの餌として飼われていただけだった。
「……絶対に、許さない」
私は暗ので、冊の介護誌を抱え直した。
かった。 分の、糞尿と、涙と、理尽な罵倒が染み付いた、の塊。
だが今、このの束は、あの男の首を絞めげる、決して千切れることのない鋼鉄の鎖へと姿を変えていた。
私は誌を呂敷に包み、勝の靴箱の奥く、誰もを伸ばさない古靴のに隠した。
台所へ戻ると、柱の古計が午を告げた。
あと。
朝のになれば、修が配した引越し業者のトラックがやってくる。 私のをゴミ箱に投げ捨てるための、処刑のが。
私はを着替えなかった。 赤黒くひび割れた先のまま、割烹着を羽織り、いつも通りにやかんにを汲んだ。
ガスコンロにをつける。 青い炎が、静かにチチチと音をてて燃え盛った。
午分。
のく濁った朝のが、障子の隙から居へと差し込んできた。
バタバタと乱暴な音をてて、修が起きてきた。
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昨夜の酒が抜けきっていないのか、血った目で首筋を掻きながら、台所につ私を瞥した。
「おい、敏子。茶だ。濃いめのを淹れろ」
「はい、ただいま」
私はを完全に殺した声で応じ、湯呑みにい茶を注いで座卓へ運んだ。
居には、すでに起きした子と健が、座布団にあぐらをかいて座っていた。
子は鏡を取りし、化粧を塗り直しながら、私に向かって勝ち誇ったような線を投げかけてくる。
「お義姉さん、荷物はまとまったの? 言っとくけど、仏壇の目の仏具とか、勝にカバンに入れたりしてないでしょうね?」
健も、あくびを噛み殺しながら嘲笑った。
「おいおい、子。敏子さんはそんな卑しい真似はしねえよな? もタダ飯わせてもらった恩があるんだからよ」
の言葉を、私はただをげてやり過ごした。
修が、茶を気にみ干し、湯呑みを座卓に叩きつけるように置いた。
その音を図にするように。
の砂利を、型ディーゼルエンジンの苦しい鳴りが揺らした。
ゴオオオオ……ッ。
ブレーキの軋む鋭い属音が響き、扉のに台のトラックが横付けされた。
台は、青いシートで覆われたトンの引越しトラック。 そして、そのろにぴったりとつけられていたのは――。
無質なの鉄板で覆われた、産業廃棄物のパッカーだった。
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ゴミ収集。
体の部には、巨な破砕用の回転板が、獲物を待ち構える怪物の顎のようにをけていた。
私の背筋を、たい刃物が撫でろされたような戦慄がった。
あの男は、本気なのだ。
源造のいも、私のの病の痕跡も、文字通りこの回転板のに叩き込み、鉄くずと片に砕して消しる気なのだ。
「来たようだな」
修は酷な笑みを浮かべ、ちがった。
玄関の引き戸が、ガラガラと慮のない音をててけ放たれる。
作業着を着たの男たちが、に養テープを巻いたで、ずかずかとがり込んできた。
「おはようございます! アキヤマ引越サービスの者です! 本の財括撤の件でお伺いしました!」
リーダー格の若い男が、クリップボードをに修に礼した。
修は顎をしゃくり、奥の介護部を指差した。
「ああ、ご苦労さん。奥の畳にあるものは、具もベッドもも、すべて用品だ。パッカーの方へ直で構わん。ガンガン潰して積んでくれ」
「承いたしました! 作業始します!」
男たちが、械な取りで廊をんでいく。
その瞬だった。
「お待ちください」
私の声が、凍りついた朝の空気を切り裂いた。
張り詰めた、しかし決して震えてはいない、く澄んだ声だった。
作業員たちのが止まる。
修が、苛ちをわにして眉を吊りげた。
「……何だ、敏子。まだ未練がましく駄々をこねる気か?」