"義父を八年看取った夜、手切れ金は三万円" 第11話
武蔵野のマンションで、あなたが毎万円を貢いで囲っている、あの母子のことよ」
修の顔から、急速に血の気が引いていくのが、暗がりのでもはっきりと見て取れた。
「な、ぜ……。なぜ、その名を……」
「お義父さんはね、修さん」
私は歩、修へとづいた。 私の瞳は、暗のでたく、冴え冴えとっていた。
「あなたがっているより、ずっとずっと、あなたのことをよく見ていらっしゃったわよ」
その。
表の通りから、く、けたたましいサイレンの音が響いてきた。
修が呼んだ、福祉課のではない。
そのサイレンの音は、台ではなかった。 台、台となりい、このの古い敷を目指して、急速にづいてきていた。
修のスマートフォンが、けたたましく鳴り響いた。
画面に表示された文字を見た瞬、修のが激しく痙攣した。
ディスプレイにっていたのは――。
『横浜方裁判所 執官』
その無質な文字列だった。
ディスプレイに浮かびがった無質な文字を、修の濁った瞳が凝していた。
『横浜方裁判所 執官』
着信音は、暗い居にまるで子の断台の鐘のようにたく響き渡っていた。
修の指先が、ガタガタと目に見えて震え始める。
「な……んだ、これは。どうして……執官が……」
受話器のアイコンをスライドさせようとした修のから、スマートフォンが滑り落ち、畳のに鈍い音をてて転がった。
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その直だった。
ドン、ドン、ドン――。
玄関の引き戸を、節くれだった拳で叩くな音が、の柱を揺るがした。
「修殿! ならびに源造殿の相続関係者の皆様! 横浜方裁判所執官の者です! 至急、扉してください!」
声ではない。 だが、国の法の名において切の妥協を許さない、絶対な制力を帯びた男の声だった。
居の空気が、瞬で凍りついた。
子が鳴をみ込み、健は腰を抜かしたように畳のでずさりをした。
「あ、兄貴……執官って……差し押さえに来る奴らだろ!? なんでだよ、親父が借でも残してたのかよ!?」
「黙れ! そんなはずがあるか!」
修が叫んだが、その顔はすでに気を通り越し、のように青くなっていた。
私は、割烹着のシワを静かにで伸ばすと、の凍りついた線を背に、迷いのない取りで玄関へと向かった。
「お、おい! 敏子! けるな! けるんじゃない!」
修が喚きながら追いすがろうとする。
だが、私は躊躇うことなく、玄関の鍵をけ、引き戸をきく引いた。
朝のたい気が、気にへと流れ込んできた。
そこにっていたのは、の物だった。
は、黒いコートを着て腕章を巻いた、代半ばの屈な裁判所執官。
そして、その隣にっていたのは――。 質なウールのロングコートを纏い、には分い革の類鞄を提げた、髪をきっちりと撫で付けた老紳士だった。
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老紳士は私を見ると、胸ポケットから名刺入れを取りし、々と礼した。
「初めまして、敏子さんですね。……かねてより、源造先から厳命を受けておりました、弁護士の桐原です」
桐原。
その名を聞いた瞬、私の背で修が「ヒッ」と息を呑む音が聞こえた。
資系製薬会社の経理統括として、法務の修羅を幾度もくぐり抜けてきた修が、その名をらないはずがなかった。 企業法務と遺産紛争において、関円で最も酷かつ無敗を誇る、桐原総法律事務所の代表弁護士。
あたりの相談料だけで万円をらない、個の相続争いなど絶対に引き受けないはずの鎮だった。
「き、桐原……先……? なぜ、あなたが……こんなボロに……」
修の喉から、掠れた声が漏れた。
桐原弁護士は、修を瞥もしなかった。 ただ、元の類鞄から通のい封筒を取りし、執官に図を送った。
執官が、ややかな声で告げる。
「本午分付で、横浜方裁判所第民事部より発令されました、産保全処分決定通を執いたします。本物件における切の産搬、財撤、ならびに第者への占移転を即禁止します」
で待していた引越し業者のトラックとパッカーの運転が、執官の腕章を見た瞬、エンジンを急いで切り、脱兎のごとくからりてをげた。