"残高220円の介護嫁" 第1話
初の法がけたばかりの、曜の午だった。
線の残りが、まだ畳の砂壁にく染み付いている。
私は、使い古したポリエチレンのバケツにぬるま湯を汲み、雑巾を固く絞っていた。
塩素系漂剤のツンとした刺激臭が、の奥を微かに刺す。
義母・松本静が息を引き取ってから、が過ぎた。
にわたって彼女の体を支え、褥瘡に膏を塗り、排泄の世話を続けてきたこの部は、主を失った途端に、ただの角い空洞になっていた。
私の指先は、の清掃パートと仕事のせいで、指紋が半分削れ落ちている。
になれば、爪のえ際がパックリと割れて血が滲む。
それが私の、の輪郭だった。
ガチャリ、と。
静まり返った玄関で、属が擦れう無慮な音が響いた。
チェーンロックをかけていないドアが、側から乱暴に押しけられる。
靴を脱ぐ気配すらない。
コツ、コツ、コツ。
いヒールが、板のフローリングを刻みに叩くな音が、まっすぐに居へとづいてきた。
「うわ……なにこれ。すごい線臭い」
引き戸が音をてていた。
敷居の向こうにっていたのは、見覚えのない若い女だった。
ラクダのカシミヤコートを肩にかけ、にはさなブランドものの革バッグを提げている。
孔を骨につまみながら、私と、部の隅に置かれた仏壇を交互に見ろしていた。
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神崎絵里奈。
義弟である健の、自称『婚約者』だった。
そのろから、仕てのいいネイビーのスーツにを包んだ男が、平然と同然の勢いでがり込んでくる。
松本健。歳。
品川区役所に勤める、絵に描いたような『エリート公務員』であり、き夫・介の弟のだ。
「おい、美奈子さん。まだそんなところでウジウジ雑巾がけなんかやってんのか」
健は私を瞥もせず、ポケットからい除菌スプレーを取りすと、居の空に向けて無造作に吹き散らした。
状のアルコールが、線の煙と混ざりい、異様な匂いをてて畳に落ちる。
「今で初も終わったんだ。区役所の続きも、あらかた俺の方で理がついた」
健はそう言いながら、ネクタイをしだけ緩めた。
「本題に入ろうか。単刀直入に言うけどさ、今週の曜までに、ここを完全に引き払ってくれないかな」
私は雑巾を握ったまま、畳のに正座した姿勢を崩さなかった。
膝の関節が、古傷のように鈍く痛む。
「……引き払う、とは?」
「言葉通りのだよ」
健はで笑った。
「母さんがんだんだ。このは、松本の直系である俺が単独で相続する。お袋の面倒を見てくれたことには、まあ、応謝してるよ。でもあんたは、に兄貴がんだ点で、法律はただの同居に過ぎないんだから」
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隣で絵里奈が、フッと馬鹿にしたような息を漏らす。
「健さん、言った通りじゃない。こういうって、自分がどれだけ図々しい寄虫か、自覚がないのよ。何タダ飯わせてもらってたとってるのかしら」
女の細い指が、壁に掛けてある古いカレンダーや、褪せた掛け軸を汚い物を見るように指差した。
「品川駅から徒歩圏内の築古マンション。リノベーションして売りにせば、今なら軽く千万円はらないって産も言ってたわ。健さん、こんな気な部、秒でもく解体業者に入れた方がいいわよ」
千万円。
その数字がた瞬、健の喉仏がゴクリときくしたのを、私は見逃さなかった。
「そういうことだ、美奈子さん」
健が歩、私のへ踏みしてきた。
「あんたには、都営の単者向け宅の募集パンフレットを玄関に置いといてやったから。敷くらいは、俺の切れからしてやってもいい。だから、曜の朝までに自分の私物だけまとめてていけ。タンスや蔵庫は置いていっていいぞ。産廃業者にまとめて処分させるからな」
私はゆっくりと顔をげた。
荒れた指先を膝ので揃え、健の顔をまっすぐに見つめた。
「お義母さんが倒れてからの、健さん、あなたはこのに何回を運びましたか?」
「……は?」
「に度、玄関先でサプリメントの箱を置いて、分で帰るだけでしたね。