"残高220円の介護嫁" 第2話
夜に徘徊するお義母さんをので探し回ったことも、オムツから漏れた便を素で拭き取ったことも、あなたには度もありませんでした」
「それがどうした!」
健の声が、いきなり鳴り声に変わった。
「男の嫁が介護をするのは世の常識だろうが! 俺は区役所の仕事で忙しいんだよ! その代わり、俺は毎きちんとお袋の座に万円ずつ仕送りをしてたはずだ! 族のグループLINEにも、毎回振込細の写真を載せてやってただろ!」
絵里奈が腕を組み、勝ち誇ったように顎をしゃくる。
「そうよ。健さんは親孝な息子として、職でも親戚のでも名なんだから。あんたみたいに、に引きこもってのと息子の仕送りでき延びてきた寄虫が、偉そうに答えしないで」
の言葉には、片の迷いもなかった。
自分たちが絶対の正義であり、絶対の者であり、目のにいる汚い女をどう扱おうと許されるという、無垢なまでの残酷さ。
「さっさと返事をしろよ、美奈子さん」
健が苛ちをわにし、元に置いてあった仏具の台を、革靴のつま先でい切り蹴ばした。
ガアン、と。
鼓膜を突き破るような属音が、狭い畳に響き渡った。
私の入れしていた真鍮の鏧子(おりん)が、台座かられて宙をい、畳のを激しく転がった。
広告
それは、夫の介がくなったに、私がわずかな遺族を切り詰めて買い求めた、唯の仏具だった。
「あーあ、が滑っちゃったよ。まあ、どうせ全部ゴミにすんだから同じだろ」
健は嘲笑しながら、スーツの内ポケットから本の具を取りした。
先端の尖った、無骨なプラスドライバーだった。
「曜まで待つつもりだったけどさ、気が変わったよ。あんたみたいな図太い居候に居座られたら、鍵で何を持ちされるかわかったもんじゃないからな。今すぐ玄関のシリンダーをして、スマートロックに取り替えさせてもらう」
「待ってください」
「指図するな! 今からここはおのじゃない!」
健はドライバーを握りしめ、玄関のドアノブへ向かって股で歩きした。
絵里奈がスマートフォンを取りし、壁の寸法を嬉々として測り始めている。
は完全に、私がいつものようにうつむき、涙をこらえてその屈辱を呑み込むものだと信じ切っていた。
過、どれほど理尽な言葉を投げつけられても、私がそうしてきたように。
だが。
私はちがった。
の痺れなど、微もじなかった。
エプロンのポケットから、自分のスマートフォンを取りす。
画面のロックを瞬に解除し、カメラを起した。
カシャ。
静かな内に、甲い子シャッター音が鳴り響いた。
広告
「……あ?」
玄関のドアスコープにドライバーの先端を突っ込もうとしていた健が、怪訝そうに振り返る。
カシャ。カシャ。
私は無言のまま、迷いのない取りで健にいを詰めた。
至距から、彼の顔面、握りしめられた具、そして蹴りばされて縁が歪んだ仏具の鏧子を、確に画角に収めて連続で撮した。
「おい……何してんだよ、美奈子さん!」
健が苛ってを伸ばし、私のスマホを叩き落とそうとする。
私はその腕を、半歩を引くことで静に躱した。
、暴れる認症の義母の体をで抱え込み、あざだらけになりながら制御してきた私にとって、運の公務員の緩なきを見切ることなど、造作もないことだった。
画面を健の目のに突きつける。
そこには、剥がれかけたドアの属、彼の元、そして何より——彼のスーツの胸ポケットから覗いている、品川区役所の職員分証が鮮に写り込んでいた。
「器物損壊の現犯ですね、健さん」
私の声は、自分でも驚くほど平坦で、たく澄んでいた。
「な……っ!?」
「この部の名義が誰にあるにせよ、現、私には正当な占権があります。借賠償責任保険も私の名義で支払っています。正当な続きを経ず、居の鍵を暴力に破壊して交換する為は、刑法の居侵入および器物損壊に該当します」
「お、お……何を言って……」
「区役所のコンプライアンス推課に、この写真を今すぐ送信したら、あなたの次の事評価はどうなるかしら」