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"残高220円の介護嫁" 第6話

静まり返った部に、私のスマートフォンの着信音が鳴り響いた。

画面を見ると、表示されていたのは『品川区役所・齢者福祉課』の文字だった。

私は呼吸を度し、喉の奥の震えを抑えてから通話ボタンをスライドさせた。

「はい、松本です」

『あ、美奈子さんですか? お忙しいところすみません。域包括支援センターの主任をしております、坂本です』

話の主は、義母の介護認定やショートステイの続きで、になって相談に乗ってくれていたベテランの女性職員だった。

『静さんの初、無事に終わられましたか? 体調は崩されていませんか?』

「ええ……なんとか。坂本さん、その節は本当にありがとうございました」

『いいえ、美奈子さんがどれほどにして静さんに尽くされてきたか、私たち支援センターのはみんなっていますから。それでね、美奈子さん。今話したのは、でもないんです』

坂本さんの声のトーンが、わずかにくなった。

周囲を気にしているような、慎な響き。

『実は……先ほど、健さんがうちの課の窓に見えられたんです』

私の臓が、トクンと嫌なね方をした。

「健さんが……ですか?」

『ええ。静さんの介護保険の資格喪失届と、過誤納の還付続きに来られたんですが……そのついでに、美奈子さんの今の居実態について、執拗に確認されていかれまして』

「私の、居実態……」

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『ええ。“兄嫁は今週に退することになっている。あそこは現空き同然であり、郵便物等も全て自分の所に転送届をすので、区からの類は切美奈子に渡さないでくれ”と。かなり調でおっしゃっていて……』

坂本さんはそこで言葉を切り、さくため息をついた。

『美奈子さん。本当に、退されるんですか? 私、に静さんと交わした“あのお約束”のことがずっと気になっていて……』

その言葉がた瞬、私の胸の奥で、カチリと何かの歯が噛みう音がした。

「坂本さん」

私は話をく押し当てた。

「お義母さんが、公証役ったのことですね」

話の向こうで、坂本さんが微かに息を呑む気配がした。

『……やっぱり、美奈子さんはごだったんですね』

「いいえ。詳しい内容までは聞いていませんでした。お義母さんはただ、“これで美奈子さんをあの悪魔から守れる”とだけ言って、さな切れを私に託したきり、詳しいことは何も……」

『そうでしたか……。静さんは、本当に美奈子さんのことを案じておられました。健さんがどれほど恐ろしいことをしているか、静さんはあの、驚くほど鮮識で全てを私たちに打ちけてくださったんです。“息子にを奪われたら、美奈子さんがに迷ってしまう。あの優しい子を、私の盾にしてはいけない”って……』

坂本さんの声が、微かに湿りを帯びていた。

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『美奈子さん。健さんは今、かなり切迫しています。職の共済組からも額の借入をしているという噂が、庁内でも流れています。もし何か危険をじたら、すぐに私に連絡してください。あの類の原本は、公証役に保管されていますから』

「ありがとうございます、坂本さん。でも、丈夫です」

私は仏壇のに歩み寄り、畳の線を落とした。

「私、もう逃げませんから。お義母さんが命を削って残してくれたものを、あの男に踏みにじらせるわけにはいきません」

話を切り、通話を終した。

は、再びい静寂に包まれた。

だが、その静寂は、先ほどまでの苦しい絶望のを失っていた。

私は仏壇のに正座し、静かにわせた。

輪、しいものに取り替えてを灯す。

本のい煙が、井の染みに向かってまっすぐに昇っていく。

私は、仏壇の央に鎮座する、あの真鍮の鏧子(おりん)にを伸ばした。

底面の裏側。

使い込まれ、の油と経変化で黒ずんだ属の縁。

そこに、古い米褐の布テープが、頑丈に何にも貼り付けられている。

爪をて、そのテープの端をミリ単位でゆっくりと剥がした。

パリ、パリ、と粘着剤が乾いた音をてて剥がれていく。

テープの隙から現れたのは、折りたたまれた、ごくさなプラスチックの板だった。

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