みかん小説
本棚

"残高220円の介護嫁" 第13話

「あ……あ……」

から、空気が漏れるような音がした。

両膝がガクガクと震え、っていられなくなったのか、ドサリと畳のに崩れ落ちた。

「お兄ちゃん、クビになるの……?」

恵子が引きつった声をげる。

「公務員をクビになったら、退職ないじゃない! 借はどうなるのよ!?」

るかよ!」

浩司が鳴り声をげ、健の胸ぐらを掴みげた。

「おい健! てめえ、俺たちを巻き込む気か! 親父とお袋の遺産を分けするって言ったから来てやったのに、借まみれのにクビ寸だと!? ふざけんじゃねえぞ!」

せ! 浩司、せよ!」

「誰がすか! てめえのせいで松本の恥晒しだ!」

狭いで、先ほどまで「松本の結束」を誇っていた兄弟が、醜い号をげながら掴みいを始めた。

親戚たちも「聞いてないぞ」「うちのを返せ」と騒ぎて、居瞬にして修羅と化した。

絵里奈は、沼の喧嘩を繰り広げる健を見ろし、信じられないものを見るような目をしていた。

「最悪……」

女のから、吐き捨てるような呟きが漏れた。

「エリート公務員? 資産の息子? 全部嘘だったんじゃない……ただの借まみれの寄虫じゃないの……!」

絵里奈は踵を返し、玄関へとした。

「待ってくれ、絵里奈! 絵里奈!」

が浩司のを振りほどき、うようにして女の元に縋り付こうとする。

広告

だが絵里奈は、履いていたハイヒールの踵で、健の甲をい切り踏み躙った。

「触らないでよ! 汚らわしい!」

バタン!

玄関ドアが乱暴に閉まり、女の音は度と戻ってこなかった。

いつくばり、の甲を押さえて呻く健

浩司と恵子は、青ざめた顔で互いを見つめっていた。

「じ、冗談じゃないわ……」

恵子がずさりする。

「お母さんの遺産を相続したら、この借緒に背負わされるんでしょう!? 私、相続放棄するわ! 今これから庭裁判所にって続きしてくる!」

「お、俺もだ!」

浩司も慌てて靴を履き直した。

「兄貴、てめえで全部背負え! 俺たちは切関係ねえからな!」

蜘蛛の子を散らすように、親族たちが玄関へと殺到した。

数分までの傲な態度は跡形もなく、ただ自分たちのを守るためだけに、罵声を浴びせいながら逃げしていく。

やがて。

い静寂が、再びに戻ってきた。

残されたのは、畳に額を擦り付けたままけない健と、文机のに座る私だけだった。

の煙が、静かにを漂っている。

「……どうしてだ」

の喉から、血を吐くような掠れ声が漏れた。

「どうして……こんなことに……兄貴がんだ今、俺が松本を継ぐべきなんだ……」

私は何も答えず、ただ静かに机のの鏧子(おりん)にを伸ばした。

底面の裏側。

広告

古い布テープを、ゆっくりと剥がす。

から取りした、あのさなプラスチックの受取票。

そして、元に用してあった、最通の分い封筒。

私はその封筒の封を切り、から厳封された類を取りした。

品川公証役で交付された、遺言公正証の正本だった。

『遺言公正証

は震える指で類を引き寄せた。

『私が所する品川のマンションは、男・介の妻、松本美奈子に遺贈する』

「……嘘だ。母さんが、そんなことを」

「半、お義母さんが公証にご自を伝えて、残したものです」

私は、健の目を見た。

「あなたが今ここで何を決めても、勝にこのを売ることはできません。遺留分を請求するなら、これから弁護士を通して話してください」

「じゃあ、借は……あのを担保にした借はどうなる」

「お義母さんが契約したとされる期の判断能力と、担保を設定した経緯を調べます。すぐに担保が消えるとは言いません。でも、あなたが連帯保証として署名した事実も消えません」

から、類が滑り落ちた。

売るつもりだったは、もう自分の判断ではかせない。返済のだけが、変わらずづいてくる。

「美奈子……美奈子、頼む……!」

が突然、つんいのまま畳のい寄ってきた。

座ではない。

まるで、に溺れた者が目のの丸太に必で爪をてるような、醜悪な執着。

私のスラックスの裾を、にまみれたで掴もうとする。

「頼むよ美奈子さん! 助けてくれ! 俺が悪かった! 母さんの遺産をおがもらうのは認める! でも、あの借だけは……このを売って、借だけは清算してくれ! お千万くらい残るだろ!? 残りのはおに全部やるから!」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: