"15冊帳簿の専業主婦" 第3話
自らが作った借の穴埋めのために、娘の未来の資まで根こそぎ奪いり、母親である私を法に無能力者として座敷牢へ売りばす気なのだ。
許さない。絶対に。
震えていた指先が、嘘のように止まった。 胸の奥で、氷のように徹な覚悟が音をてて固まっていく。
そのだった。
コッ、コッ。
静まり返ったトイレのい製ドアに、入れのき届いた男の指先が軽く触れる音が響いた。
続いて、ガチャリとドアノブが激しく方に回された。 だが、内鍵がかかっているため、ノブは途半端な位置でガタガタと軋んだ音をてて止まる。
ガチャ、ガチャ。
度、度。静かな廊に、属の鳴が苦しく反響した。
息を殺し、私はドアを見つめた。 板を隔てたわずか数センチの至距に、健司がっている。
「真由美?」
ドアの向こうからってきたのは、驚くほど滑らかで、甘やかな、そして鳥肌がつほどった夫の声だった。
「どうして鍵をかけるんだい? お、こののトイレの鍵なんて、今まで度もかけたことがなかっただろう」
沈黙が落ちた。私は類を素く折りたたみ、換気扇の通気の隙を指先で探り始めた。
ドアノブが、再びゆっくりと、今度は押し破るような力で軋み始める。
「……ねえ、真由美。聞こえているんだろう? 胃の具はどうだい? 丈夫かい?」
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声のトーンは優しい。だが、その声の底には、檻のの獲物が穏なきを見せたことに対する、酷な苛ちが確実に滲んでいた。
「ただの健康チェックだよ。配することなんて何もないんだ。……それとも真由美、鍵をかけなきゃいけない理由でもあるのかい? もしかしてまた、誰かに見張られているとか……そういう覚が見えているんじゃないだろうね?」
ドアの隙のが、じっとかずに私の返答を待っていた。
「……真由美? 聞こえているんだろう。で何をしているんだ?」
「真由美? 聞こえているんだろう。で何をしているんだ?」
ドアノブがガタガタと暴力に軋む。真鍮の内鍵が鳴をげていた。
私はえ切った便座ので直したまま、必で呼吸を殺した。のには、娘・咲良の千百万円の教育信託を奪い取るための、あの複写。 今ここで取り乱せば、健司は迷わず鍵をこじけ、私の「錯乱」を実に警察か救急を呼ぶだろう。あいつの元には、すでに周到に用された偽造の観察記録と盗撮写真があるのだ。
私はエプロンの裾で額の汗を乱暴に拭い、ちがった。 そして、わざと指先を喉の奥へく突っ込んだ。
激しい吐瀉反射が胃を突きげ、乾いた咳とともに胃液が込みげる。
「うっ……げほっ、おえっ……」
便器に向かって胃液を吐きしながら、同に力任せにレバーを引いてを流した。
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ゴオオッと激しい流の音が、狭い個を満たす。 私は鍵をけず、ドアのすぐ内側に額を押し当て、息も絶え絶えな掠れ声を作った。
「……あなた、ごめんなさい……。夕飯の準備をしてたら……急に胃が痙攣して……吐いてしまって……」
ノブを回すのきが、ぴたりと止まった。 ドアの向こう側で、健司が息を詰めてこちらの様子を伺っている気配がする。
「……胃が痛い? お、本当に体まで壊れてきたんじゃないのか」
板越しに、舌打ちの音が微かに聞こえた。で見せる温な仮面のから、酷な本性がわずかに漏れしている。
「本当に、申し訳ありません……。ちがれなくて……。サインは……し横になって、胃が落ち着いたら……必ずきますから……」
沈黙が数秒続いた。健司はの朝半に精神科医を呼んでいる。今夜無理に騒ぎてて、隣に通報されるリスクを冒す必はないと判断したのだろう。
「……勝にしろ。ただし、の朝半には片が来るんだ。そのまでに顔を洗って、ちゃんとしたに着替えておけよ。みっともない真似をしたら、ただじゃ済まないからな」
い音が廊をざかり、リビングのドアがバタンと乱暴に閉まった。
私は息を吐きし、ゆっくりとに崩れ落ちた。 助かったわけではない。猶予がほんの数、の朝まで延びただけに過ぎない。
私はちがり、換気扇の通気の格子を指先で慎にした。