"15冊帳簿の専業主婦" 第8話
法な防御壁は、完璧に敷かれた。
夜半。 私は、自宅へと戻った。
リビングにはかりが灯り、健司がソファにく腰掛けてウイスキーのグラスを煽っていた。には、私が昼引き裂いた類の残骸が散らばっている。
「帰ってきたか、狂が」
健司は氷のようにたい声で言い放った。
「勝な真似をしてくれたな。信託座の解約が止められた。だがな、おがいくら掻こうと、俺には来週からの制執をかける準備があるんだよ」
私は何も言わず、健司のに歩み寄った。 そして、そのに両膝をつき、両を畳について、額をに擦りつけた。
「……申し訳ございませんでした」
私の声は、震えていた。完璧に調教された、絶望の淵に沈むれな妻の姿だった。
「真由美……?」
健司が怪訝そうに眉をひそめる。
「私の……負けです。もう、疲れ果てました。信託の件も、私の名義の借の件も、すべてあなたの言う通りにいたします。婚届にも判を押します。咲良の親権も、あなたにお渡しします」
額をに押し付けたまま、私は涙声を作って言葉を絞りした。
「ですが、あなた……最のお願いがつだけございます」
「お願いだと? 敗者が指図する気か」
「いえ……私の儘ではありません。浅野の、そして何より、あなたの世体のための最のお願いです」
私は顔をげ、涙に濡れた瞳で夫を見つめた。
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「今週の曜は……あなたの、コンプライアンス統括部への昇祝賀会でございます」
健司の喉仏が、ピクリといた。 本社役員や直属の部、そして双方の親族が堂に会する、健司にとって最のれ台だ。
「会社の役の皆様やご親族ので、私が急に姿を消せば、審にった皆様があなたに詮索を入れるでしょう。『奥さんはどうした』『なぜ番のれ台にいないのか』と。……世体をんじるあなたにとって、それは耐えがたい屈辱のはずです」
健司の計算い瞳が、細められた。世と体面こそが、この男の唯の急所だった。
「……それで?」
「祝賀会の席で、親族と皆様ので、私から公にお詫びをさせてください。私の健康状態が優れず、妻としての務めを果たせなくなったこと。そして皆様ので円満にを引き、居権も親権もあなたにお返しするとをげさせてください」
私は再び額をに擦りつけた。
「そうすれば、あなたは『病気の妻を最まで支えようとした、劇の派なリーダー』として、誰からも同と尊敬を集めることができます。しいも、何の障害もなく始められるはずです」
静寂がリビングを支配した。 計の秒針の音だけが、チク、タク、とたく響く。
健司は腕を組み、井を見げた。 そのので、極めて都の良い計算が猛スピードで回転しているのがに取るように分かった。
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親族と会社の層部ので、妻が自らの非を認めて座し、権利を放棄する。 これ以のシナリオはない。から「脅迫された」という言い訳を完全に封殺し、浅野の絶対な支配者として君臨できる完璧な公処刑の。
「……ふん」
健司の喉から、満げな嘲笑が漏れた。
「珍しく気の利いたことを言うじゃないか。いいだろう、その提案に乗ってやる」
健司はちがり、靴の先で私の肩を軽く突いた。
「曜の祝賀会がおの最のだ。全員ので、完璧に惨めに座しろ。それが済んだら、荷物つでてけ」
「……はい。ありがとうございます」
に額を押し当てたまま、私の唇は暗ので酷な笑みを刻んでいた。
乗ってきた。 この男は、自らの肥化したプライドに目を眩ませ、私が用した断台へと、自らのでび込んできたのだ。
曜の夜。祝賀会の夜。
のが寝静まったのを見計らい、私は階の廊のにを潜めた。 健司の斎のドアの隙から、微かに氷の触れう音と、スピーカーフォンから漏れる女の声が聞こえてくる。昼の融ブローカー・佐伯だ。
胸ポケットに忍ばせたスマートフォンを取りす。 夕方、健司が呂に入っているわずか分の隙に、私は健司が着用する勝負スーツの胸ポケットの裏――仕てのタグの隙に、晶子から借りた超型の性能ボイスレコーダーを縫い付けていた。