"15冊帳簿の専業主婦" 第9話
イヤホンを通じて、鮮な音声が私のにび込んでくる。
『――ねえ健司さん。の筈、本当に丈夫なんでしょうねえ?』
佐伯の徹な声が響く。
『ああ、完璧だよ。の祝賀会の席で、真由美が親族と役員全員ので座して、信託の解約委任状と婚届に実印を押す筈になっている。役員たちので言質を取れば、もうあいつは言も言い逃れできない』
健司がグラスを傾け、品な笑い声を漏らした。
『の会が終わったら、親族を証に仕てた類を持って、そのままおのファンドへ実の抵当権を設定する。真由美は着の着のままで追いし、娘の教育資千百万円はそのまま俺たちのしい座へ移す。邪魔者は匹も残らない』
『ふふっ、最ね。じゃあ、会のホテルのロビーで待ってるわ』
『ああ、乾杯しよう。俺たちの輝かしい未来に』
カチャリ、とグラスのぶつかりう音がイヤホンので虚しく響き渡った。
健司はらなかった。 の祝賀会が、自分を賞賛するための栄の台などではなく、自らの悪辣な犯罪為を社会と法の名のもとに完全に断罪するための、血塗られた処刑であるということを。
私は暗い廊の角で、録音データのバックアップを確認した。 赤いインジケーターのが、私の拍と同じリズムで、たく、静かに点滅を繰り返していた。
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曜の午。 都内名ホテルの層階にある宴会「鳳凰の」は、華やかな気とグラスの触れう音に包まれていた。
精密器メーカー・コンプライアンス統括部就任祝賀会。
壁際にはずらりと並んだ胡蝶蘭。テーブルを囲むのは、本社の専務をはじめとする役員陣、健司の直属の部たち、そして浅野の親族同。誰もが笑顔を浮かべ、今の主役である健司を羨望の差しで見つめていた。
座の演壇につ健司は、あの仕ての良い勝負スーツを寸分の狂いもなく着こなし、な鏡の奥で自信に満ちた笑みを湛えていた。その佇まいは、誰の目にも「非の打ち所のないエリート幹部であり、庭をする模範男」そのものだった。
私は会の末席、親族席の端に控え、黒い控えめなアンサンブルを着て静かに俯いていた。
「真由美さん、健司さんの部昇、本当におめでとう。あなた内助の功ね」
隣に座る健司の従姉が、親切そうに微笑みかけてくる。
「ありがとうございます……」
私は力なく微笑み、消え入りそうな声でをげた。怯え、追い詰められ、夫の栄ので今にも壊れそうな「れな妻」を完璧に演じ続けながら。
壇で、専務取締役による祝辞が終わり、盛な拍が巻き起こった。
マイクを握った健司が歩にみる。
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通る声で会社への謝と今の抱負を淀みなく述べた、彼はふっと言葉を切り、芝居がかった苦渋の表を浮かべた。
「……本、会社関係者の皆様、そして親族の皆様がお集まりいただいたこの席で、誠に苦しいのですが……どうしても、私のから皆様にご報告し、決着をつけなければならない事柄がございます」
会のざわめきが、潮が引くように止まった。 役員たちがグラスを置き、怪訝そうに眉を寄せる。
健司は痛な面持ちで目を伏せ、胸元から通の類を取りした。
「実は……これまで浅野の恥として、私の胸つに納めて耐え忍んできたのですが、限界に達しました。……私の妻、真由美のことです」
会の数百の線が、斉に末席の私へと突き刺さった。 私は両肩をさく震わせ、顔を覆うようにしてを縮めた。
「真由美は……度の買い物依症と緒定に陥り、私の名義を騙って額の借入を繰り返し、庭を完全に破綻させました。先も、娘の咲良の教育信託にまでを付けようとし、私に対する突発な自傷為にまで及んだのです」
ざわり、と会が騒然となった。 親族たちの顔に侮蔑と軽蔑のが広がり、役員たちが気まずそうに顔を見わせる。
「私は妻をし、救おうと精神科の受診を勧めましたが、彼女はそれすら拒絶しました。
……そこで本、皆様のお会いのもと、真由美には庭の管理権を放棄してもらい、穏便な協議婚と専施設での療養に入ってもらうを結びたいといます」