"15冊帳簿の専業主婦" 第10話
バサリ、と健司の部が私ののテーブルに置いたのは、あの緑の枠線が入った『婚届』と、信託座の解約委任状だった。
健司が演壇から見ろす瞳には、完璧な勝利を確信した男の、酷で醜悪な嗜虐の笑みが宿っていた。
「さあ、真由美。皆様ので自らの非を認め、ここに署名と捺印をしなさい。それが、おが族に対してできる最の償いだ」
静寂がホールを覆い尽くした。 酷な線、軽蔑の囁き、そして健司の傲な差し。
かつての私なら、この圧倒な社会暴力のに膝を折り、言われるがままに判を押していただろう。
だが、私は両を膝から静かにすと、く、かすかに笑った。
「……ふふっ」
「何がおかしい!」
健司が苛たしげに声を荒らげた。
私はゆっくりと、背筋を伸ばした。 顔を覆っていたをろす。私の両目には、涙の粒すら浮かんでいなかった。
氷の底から削りしてきたような、徹で澄み切ったを湛えた私の瞳と目がった瞬、健司は壇でぎょっと息を呑んで退った。
「浅野健司さん」
私は静かに、だが会の隅々まで染み渡る凛とした声で呼びかけた。
「親戚と会社の皆様ので、ご丁寧な処刑劇の台をえてくださり、から謝申しげます」
「な……何を言っているんだ。くサインを――」
「サインなら、いたしますよ」
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私はテーブルのの類に目もくれず、ちがった。 会の方、音響コントロールブースにつ晶子に向けて、さく図を送る。
「ですがそのに、皆様にご覧いただき、お聞きいただかなければならない『つの事実』がございます」
「真由美、いい加減にしろ! 警備員、この狂をへつまみせ!」
健司が叫んだ瞬、ホテルの巨プロジェクタースクリーンが、眩いとともに起した。
投されたのは、健司が提した虚偽の診断などではなかった。
画面いっぱいに映しされたのは、京庭裁判所が発付した【財産処分禁止仮処分決定通】、そして警庁活全課の【詐欺及び私文偽造に関する被害届受理票】だった。
さらに、その横には、過の精密な計簿の抜粋と、健司が無登録FXファンドで損をし、から借り入れた千百万円の負債細が、公な調査証とともに鮮に並べられていた。
「な……なんだ、これは!?」
専務取締役がちがり、血相を変えて叫んだ。
「浅野課、これはどういうことだ! おが社内コンプライアンスの責任者でありながら、反社会勢力まがいのから億単位の抵当権を設定しようとしていたのか!?」
「ち、違います専務! これは妻が捏造した画像で――!」
「捏造ではありません」
私の声と同に、ホテルの最級サラウンドスピーカーから、雑音つない鮮な健司の肉声が、音量で鳴り響いた。
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『――完璧だよ。の祝賀会の席で、真由美が親族と役員全員ので座して、信託の解約委任状と婚届に実印を押す筈になっている』
親族たちの顔が、青からへ、そして見る見るうちに凍りついていく。
『役員たちので言質を取れば、もうあいつは言も言い逃れできない。……の会が終わったら、類を持ってそのままおのファンドへ実の抵当権を設定する。真由美は着の着のままで追いし、娘の教育資千百万円はそのまま俺たちのしい座へ移す。邪魔者は匹も残らない』
『ふふっ、最ね。じゃあ、会のホテルのロビーで待ってるわ』
『ああ、乾杯しよう。俺たちの輝かしい未来に』
カチャリ、と氷のぶつかりう品な音が響き、音声が途切れた。
宴会は、よりもい沈黙に支配された。
健司の顔から完全に血の気が引き、持っていたマイクがから滑り落ちて、ゴトンと鈍い音をてて絨毯を転がった。
「あ……あ……」
喉から引きつった空気の抜ける音しかない。 その、バンと音をてて宴会のい両きドアがかれた。
入ってきたのは、制姿の娘・咲良だった。 その隣には、しっかりと背筋を伸ばし、杖をついて自らので歩く義母・文の姿があった。
「お、お母さん……!?」
健司が壇から転がり落ちるように階段を駆けりた。
「母さん! 騙されているんだ、真由美の狂言なんだ! 助けてくれ、母さん……!」