"五十万円の便利妻" 第1話
「おのおかげで、肩の荷がすっかりりたよ。だからさ、もう終わりにしようか」
よくれた、曜の朝だった。
向きのリビングに、遮るもののない柔らかなが差し込んでいる。 淹れたてのドリップコーヒーの苦いりが漂う部で、夫の浩司は驚くほど爽やかな、点の曇りもない笑顔を浮かべていた。 まるで、きな商談をつまとめげたのエリート社員のように、その双眸は自信と充実に満ち溢れている。
けれど、コーヒーカップのすぐ横。 彼が指先で軽く滑らせてきたものには、見慣れた緑の枠線が印刷されていた。
私の名の欄だけが空になった、すでに夫の自署と実印が綺麗に収まっている、枚の。 婚届だった。
私はテーブルので、自分の腰のあたりをそっとのひらで押さえた。
のニットのには、毎朝欠かさず貼り替えている処方薬のロキソニンテープがある。越しにも、微かに漂うメントールの湿布臭が腔をついた。
義父が脳梗塞で倒れ、度の認症を併発して「介護4」の認定を受けてからの。
夜に突然始まる徘徊を止め、失敗した排泄物を処理し、デイサービスの送迎を見送り、寝返りを打たせるために夜に起きる。
パートのを限界まで削り、骨がきしむような痛みに耐えながら、成男性のい体をで抱えげ続けてきたのは私だった。
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週、義父のの法がようやく終わったばかりだった。
私の腰椎は椎板ヘルニアを起こし、骨盤の関節はすり減り、今でも朝番は洗面台にをつかなければ顔を洗うことすらできない。
歳にしてに入れたのは、元に戻らない性な激痛と、常に倦怠のつきまとうボロボロの体だけだった。
「……驚いた顔してるな。でもさ、俺ももう歳だろ。親父を取ったことで、観が変わったんだよ」
浩司は何のろめたさもない、淀みのないるい声で言葉を続けた。
「残りのは、自分ので、悔のないようにきたいって気づいたんだ。今朝も代々公園の周りを軽くってきたんだけどさ。嘘みたいに体が軽くて、どこまでもれそうな気がしたよ」
しいの展望を、のような無邪気さで語る夫。 その健康で、徹夜の残業にも耐えうる頑丈な体は、私が、すべての介護と事のをで引き受け、彼に切の負担を背負わせなかったからこそ維持できたものだという事実など、彼のからはすっぽりと抜け落ちているようだった。
夫は総商社の品流通部に勤める正社員だ。
社内報の「ワークライフバランスと族の絆」という特集号で、彼は『認症の父親を自宅で支えながら、い営業成績を維持する若リーダー』として美談の主公に祭りげられていた。
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そして先、同期ので最もいスピードで、営業課の係へと昇を果たしたばかりだった。
「おもさ、義理の親のの世話ばかりさせられる毎から解放されて、ホッとしただろ。これからはお互いに縛られずに、それぞれのをこう」
浩司は、さも私の体を気遣っているかのような、わざとらしいほど優しい声を作った。 商談相をさせるに彼がよく使う、計算され尽くしたビジネストーンだった。
「おもっての通り、係になると役員とのゴルフや取引先の接待が格段に増えるんだ。正直言って、いつも腰が痛いと眉をひそめて、化粧もろくにせず、まともなもできないおを妻として同伴するのは、俺のキャリアにとってマイナスにしかならない」
淀みなく紡がれる言葉。
そこには悪すらなく、純粋な「採算計算」だけがしていた。
「財産分与とかそういう面倒な続きは、もかかるしお互いに疲れるだろ。切れ代わりに、引っ越し代と当面の活費として万、座に振り込んでやるよ。この団は俺が独代に申し込んだ名義だから、おがていくのが筋だ。実にでも帰って、親の脛でもかじりながらゆっくり体を休めればいい」
切れ代わりに、万。 、私の代半から代半のすべてをすり潰し、キャリアを捨てて捧げた病の対価が、万円。