"余命1年の少年が託した、移植心臓の奇跡" 第11話
診察のドアが軽くノックされ、お馴染みのるい声がび込んでくる。
「せんせーい! はいりました!」
元気よく扉をけたのは、ランドセルを背負ったままのレンだった。その頬には健康でわずかな赤みが差し、背筋もピンと伸びている。ろから続く美都さんは、以のようなやつれたがすっかり消え、柔らかな笑顔を浮かべていた。
「レン君、いらっしゃい。そうだね、そのランドセル」 私はちがり、聴診器を首にかけながら笑顔で迎えた。 「ぜんぜんくないよ! 今は体育でサッカーのドリブル練習したんだから!」 レンは得げに胸を張り、の私のにちょこなんと座った。 「それは頼もしいね。じゃあ、ちょっと胸の音を聞かせてごらん」
私はチェストピースを温め、レンのシャツのからそっとあてがった。 トクン、トクン、トクン……。 かつての々しい雑音は消え、力く、リズミカルな鼓が胸郭を通して伝わってきた。しい臓は、このの体ので完璧に自分の居所を見つけていた。
「どう? 先」 美都さんがしだけ息を詰めて尋ねる。私は聴診器をし、れやかな笑顔でうなずいた。 「パーフェクトだ。脈の萌芽もゼロ。これなら来のも、平坦なハイキングコースなら問題なく参加できるね」 「やったぁ!」 レンが両を突きげて歓声をげる。
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美都さんも目尻に涙を浮かべ、く、く息を吐きして両をわせた。 「本当によかった……先、ありがとうございます……」 「僕の力じゃないさ。レン君の臓が頑張ったし、お母さんが毎栄養バランスのいい事と薬管理を徹底してくれたからだ」
診察を終え、夕方には病院の庭に保育園帰りの太も流した。 太はレンの姿を見つけるなり駆け寄る。 「レン兄ちゃん! 今ね、でプリンがたんだよ!」 「いいなー! 僕のところはバナナだったよ」 ののない会話が、夕暮れの病院庭にこだまする。
美都さんと私は、しれたベンチに腰掛け、その様子を並んで眺めていた。 「健太郎さん」 美都さんがふと、私の肩に寄り添うようにして呟いた。 「ん?」 「私、最を見るんです。昔みたいに、どうやってきていこうって怯えるじゃなくて……族みんなでにって、砂浜をるを」
その横顔は穏やかで、かつての尖った孤独の棘は綺麗に消え失せていた。 私は彼女の指先を自分の温かい掌で包み込み、ゆっくりと握り返した。 「その、来のに絶対叶えよう。で沿いまでって、砂浜でスイカ割りでもしようか」 「うん」 美都さんは幸せそうに目を細め、私の肩にもたれかかった。
が吹き抜け、々の葉がさらさらと音をてる。 傷だらけだった私たちは、互いの痛みを分かちうことで、本当のでの「」
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をに入れた。 もまた、朝が来る。 臓の鼓が刻むリズミカルな音を胸に、私たちは並んで歩きした。
初がい散る12の週末。 リビングの窓ガラスの側では、い結晶がラベンダーの鉢植えやベランダのすりをく染め始めていた。
「パパ、見て! だよ!」
太がリビングのソファからね起き、素のままラグマットを蹴ばして窓辺へと駆け寄る。その音に釣られるように、ダイニングテーブルで宿題の鉛をかしていたレンも、ふと顔をげた。
「わぁ……本当だ。積もるかな?」 「積もったら、の朝、絶対にだるま作るんだ!」
太は両を窓ガラスにぺたりと押し付け、息をく曇らせながらの世界を見つめている。
キッチンから、温かいスープのりと、包丁のまな板を叩くリズミカルな音がリビングに届いた。 エプロン姿の美都さんが、両でミトンをはめたまま、オーブンから焼きがったグラタン皿を取りしてテーブルの央にドンと置く。
「とも、窓にペタペタ形をつけないの。あとで拭くのなんだから」
優しく注しつつも、その元には隠し切れない温かな笑みが浮かんでいる。
玄関の鍵がガチャリと音をててき、気を纏ったコート姿の私が帰宅した。
「ただいま」 「パパ、おかえりなさい!」
玄関から真っ直ぐに駆け込んできた太が、私の脚にしがみつく。