"5足の男物スリッパと偽装不倫の罠" 第3話
話の向こうで、のり子の声が急に甲く響いた。
細かい内容までは聞き取れなかった。
裕介はため息をつき、窓際へ移した。
「咲に謝ってくれ。それから、い鍵を返してほしい」
私はわず息を止めた。
彼が母親に対してそこまで踏み込んで言ったのは、初めてのことだった。
しばらくして、裕介の眉にいシワが寄った。
「落としたって、どういうことだ?」
のり子は、い鍵をどこかで落としたと嘘をついているらしかった。
ついさっき、玄関先でその鍵をチャラチャラと鳴らしていたというのに。
私は裕介へ向かってく首を振った。
「今、確かに持っていた」
私が声で伝えると、裕介は頷いた。
裕介は話を切らず、静かに母親へ告げた。
「母さん、今その鍵を使って入っただろう」
話での返事が途切れた。
くで器をテーブルに置くような、鈍い音だけが聞こえた。
やがて、のり子は都が悪い話題を引に変えた。
「嫁に言わされているのね」
裕介の肩がこわばり、声が段とくなった。
「違う。俺が決めたことだ」
話が方に切れた、部には蔵庫のい稼働音だけが残った。
裕介はしばらくの、携帯話の画面をじっと見ていた。
裕介は顔をげ、私を見た。
「鍵を変えよう。業者に頼む」
私は静かに頷いた。
それでも、私の胸の奥のは決して消えなかった。
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い鍵を持っていることまで嘘をついて隠したが、部と類を素直に諦めるとはえなかった。
むしろ、今の拒絶によって、さらに何かを企むかもしれない。
その夜、私は仕事机の引きしから登記の類を取りした。
茶い封筒の角に、見覚えのない自然な折り目がついていた。
朝にを確認したには、絶対に無かったはずの折り目だった。
私は慎に類を1枚ずつ机のに並べ、携帯話で付が分かるように撮した。
最の1枚を封筒へ戻そうとした、机の奥からさな付箋がひらりと落ちた。
付箋には、のり子の見慣れた字で『共名義』とかれていた。
そのには、さらにい問いが残されていた。
『婚はどうなる?』
私はその文字から目をすことができなかった。
翌朝、玄関から属を鋭く削るい音が響いていた。
鍵の交換に来た防犯設備の業者が、古い錠を慎にドアからしていた。
私は廊にち、作業で落ちる細かな属をじっと見つめていた。
作業員が顔をげ、私へ声をかけた。
「これでの鍵は使えなくなります」
職はしい鍵を2本、い袋に入れて私に渡してくれた。
裕介はそのうちの1本を私へ渡し、もう1本を自分の財布の奥へしまった。
裕介は私にを押すように言った。
「予備は作らない」
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私は頷いたが、胸の奥のざわつきはまだ静まらなかった。
作業が終わる頃、向かいのにむあき子さんが回覧板を持ってきた。
私たちがここに引っ越してきたから、何かと気さくに声をかけてくれる優しいだった。
あき子さんは玄関先の具を見て、し声を落とした。
「鍵を変えたのね」
私は軽くをげた。
「このも、お母様と妹さんが来ていたでしょう」
私が尋ねると、あき子さんは記憶をたどるように答えた。
「平の昼だったわ。裕介さんが仕事にただったとう」
あき子さんは周囲をし気にするように線をかした。
「きな袋を2つ持って、しばらくにいたみたい」
そのは、私が仕事で取引先へ向いていただった。
のり子からもマリカからも、を訪ねたという話は切聞いていない。
私はをじながらあき子さんに聞いた。
「何かありましたか?」
あき子さんは首を横に振った。
「余計なことだったらごめんなさいね」
あき子さんはさらに声をひそめた。
「ただ、お2が帰る、窓の数を見ながら話していたから」
裕介が私の横で、さく息をんだ。
彼はすぐにあき子さんに礼を言い、回覧板を受け取った。
扉を閉めた、私たちは無言で顔を見わせた。
問題は、鍵を変えるからすでにいていたのだ。
裕介がい表でをいた。
「防犯設備の業者に相談しよう」
その声には、昨までになかった確かなさがあった。
私はすぐに返事をせず、仕事部の窓をじっと見た。