"5足の男物スリッパと偽装不倫の罠" 第11話
これまでの裕介なら、「仕事だから仕方がない」と私をなだめて張へったはずだった。
「会社に迷惑はかからないの?」
裕介は首を振った。
「司には、事をしだけ話した。庭の全に関わるなら、無理にかせられないと言ってくれた」
彼は私の隣へ座ろうとせず、机の向かい側にったままだった。
今の自分には、用に距を詰める権利はないと考えているようだった。
裕介は続けた。
「母さんとマリカには、しばらくは会わない。連絡も文章だけにして、必ず残す」
その言葉は、ただ私をさせるための約束ではなかった。
彼自が、これまでの歪んだ族のやり方を変えるための、確かな決断だった。
私は旅カバンのジッパーを閉じなかった。
ていくとも、このまま残るとも言わなかった。
「今夜は別の部で寝ます」
裕介はく頷いた。
「わかった」
彼はそれ以、私に何も求めなかった。
が傾く頃、私はくのビジネスホテルへ話をかけた。
1週ほど泊まれる部があるかを尋ねた。
受付のは、空があると答えた。
予約の名を聞かれた、私はを閉ざしてしまった。
をれれば、なくとも今夜だけはして眠れる。
けれど、私が逃げるようにをれば、のり子たちは自分たちの望みがついに叶ったとうだろう。
そんなだけで、危険なに残るつもりもなかった。
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私が守りたかったのは、単なるではなく、自分自のを決める権利だった。
私は受付のに言った。
「し考えて、また連絡します」
私は話を切った。
居へ戻ると、裕介が慣れないつきで夕を作っていた。
まな板を叩く包丁の音は慣れで、切られた野菜のきさもバラバラに揃いだった。
裕介は私に気づき、を止めた。
「べられそうなら、ここに置いておく」
彼は私の顔を伺うように言った。
私は卓の子には座らなかった。
それでも、湯気のつ格好な噌汁のお椀を、自分の仕事部へ運んだ。
彼を完全に許したからではない。
自分のために作られたものを頑なに断ることでしか、志を示せないような窮屈な関係には戻りたくなかったからだ。
べ終えた空のお椀を台所へ置きにくと、裕介は何も尋ねなかった。
ただ、張を取り消したの隣に、防犯映像の保記録をいたノートをいて置いていた。
私はそのノートのページをいた。
そこには、母親をに責める言葉ではなく、起きた事実と正確な刻だけが淡々と並んでいた。
初めて、彼がよりも事実を先に見ようとしていた。
その変化はほんのさなものだったが、私がホテルの予約話をかけ直さなかった理由にはなった。
夕方、私は桜商にある用品へ1で向かった。
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そのは、古い薬局の隣にある古びたさなだった。
主の初老の女性に、スリッパの箱の札を撮った写真を見せた。
「この5のスリッパを買ったを覚えていないか」と尋ねた。
主はすぐには答えなかった。
個の買い物報について話して良いか、警戒して迷っているようだった。
私は込み入った事を細かくは説せず、「自宅へ無断で持ち込まれた審なものだ」とだけ真剣に伝えた。
「必なら、警察から確認してもらうことになります」と付け加えた。
主はため息をつき、レジの奥の伝票の控えを確かめた。
「5まとめてなら、覚えています。若い女性が、お母様くらいの方と緒に来ました」
マリカとのり子だと、私は確信した。
けれどそこで、主は予のなことを言った。
「最初は6と言っていたんです。でも途で、1だけ別のものに変えました」
私は驚いて聞き返した。
「別のものとは何ですか?」
主は記憶をたどりながら答えた。
「女性用の内履きです。底が柔らかくて、歩いても音のしにくいものを選んでいました」
男性用スリッパの5だけではなかったのだ。
もう1は、誰かがのを音をてずに静かに歩くための履き物だった。
をると、商のスピーカーから夕方5をらせる放送が響いた。
私は灯のでち止まり、帳をいて聞いた内容を付と緒に正確に残した。