"名前を消された入園届" 第5話
「……お父さん」
私の絞りすような声に、父は線だけをちらりと助席に向けた。
「どうした」
「これ……見て……」
震えるで、名をき換えられた布団を父に見せた。 赤信号のブレーキランプの赤いが、切り裂かれた布の断面を、々しい傷のように照らししていた。
父は、数秒その布団を凝した。 その浅い琥珀の瞳の奥に、かつて私が度も見たことのないような、徹で鋭いがったのを、私は見逃さなかった。 父は何も言わず、ただギアをローに入れ直した。
「……バッグの底を確認しろ」
く、押し殺した声だった。
「おの、事なもんは入っとるか」
父の言葉に、私はハッとした。 破けたレジ袋ではない。私が肩から掛けていた、使い古した皮のトートバッグ。 玄関から突きばされた、私が必で抱え込んでいた、唯の元にあるバッグだ。
私は膝ので寝息をてる陽菜を落とさないよう注しながら、元に置いたトートバッグを引き寄せた。 側のポケットには、ティッシュとリップクリーム、銭入れ。 私は内側のファスナーをけた。 そこには、い底板が入っている。
3の夜の景が、脳裏をよぎった。
曜の夜2過ぎ。 喉が渇いて目を覚ました私が、暗い廊を歩いて台所へ向かおうとしただった。 リビングの引き戸が、数センチだけいていた。
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隙から漏れる。 康平が、に正座し、私の裁縫箱や類ケースを、狂ったようなつきでひっくり返していたのだ。
カチャカチャと、プラスチックのケースがぶつかる音。 引きしの奥まで指を突っ込み、類を枚枚めくる、荒い息。 『どこだ……クソッ、どこに隠した……』 康平のから漏れた、聞いたこともない焦燥に満ちた呟き。
私が声をかけると、彼はビクッと肩をねげ、持っていた類をに落とした。 『あ、ああ……悪い。会社の類の提でさ、族関係の確認が必で……陽菜の保険証と、おの分証のコピー、どこにあったっけ?』 声が擦っていた。目が泳いでいた。 私は胸騒ぎを覚えながら、『私のポーチのだけど、今はどこにあるか分からない』と嘘をついた。
翌朝、康平が勤した直、私はの類を確認した。 そして、本能な恐怖に突きかされるようにして、ある細をしたのだ。
トートバッグの、底板の裏。 私はカッターで底板の縫い目をわずかに裂き、その隙にを滑り込ませた。
指先が、いプラスチックの板と、みのあるの束に触れた。
スーッと、たい空気が肺腑に満ちていく。 あった。
私の、マイナンバーカード。 そして、もうひとつ。 ビニール袋に包まれた、緑の帳。
陽菜の、本物の『母子健康帳』だった。
私は、あのの朝、帳のカバーだけを古い計簿のノートに被せ、の全ページを抜き取って、ここに隠していたのだ。
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引きしに残してきたのは、私の名がかれたプラスチックのカバーと、にいダミーのノートだった。 さらに、帳のに挟まれていた「予防接種予診票」の原本と、役所から届いていた「保育施設利用内定通」の原本。
それらはすべて、私の指のにあった。
もし、あの夜の胸騒ぎを無していたら。 もし、康平の「会社の類」というな嘘を信じ込んでいたら。 私は今頃、分を証するてすら奪われ、赤ん坊を抱えてに迷っていただろう。
彼らは、私を追いすことだけが目ではなかった。 私の元から、私と陽菜の「公なの証」を根こそぎ奪い取ろうとしていたのだ。
軽トラが、踏切のでガタりと音をてて揺れた。 遮断がり、カンカンカンと警告音が夜空に響き渡る。 通過していくの窓かりが、内を規則正しく照らし、通り過ぎていく。
そのだった。
私のダウンジャケットのポケットので、スマートフォンが、ブブッとく震えた。
びがるほど驚いた。 康平からか。それとも、志織か。 嘲笑のメッセージか、それとも「く戻って謝れ」という脅迫か。
私は息を殺しながら、震える指で端末を取りした。 画面を点灯させる。 バッテリーは28パーセント。
通欄に表示されていたのは、LINEでも、着信でもなかった。
それは、埼玉の政ポータルサイト「子育て支援Web」