"名前を消された入園届" 第7話
の古傷が痛むのか、折、無識に作業ズボンのから膝をさすっている。 、の凍てつく線のでレールを点検し続けてきた男のは、指の関節が節くれち、油煙の染みが爪のに黒く沈着していた。
「康平さんが、おかしくなり始めたのは……半からだった」
ぽつり、ぽつりと、私のから言葉が零れ落ちていく。 誰かに話すためではない。 自分のので、バラバラに散らばっていた違の破片を、ひとつずつ拾い集めて並べ直すための作業だった。
半。 志織が、あの団に転がり込んできた。
『旦のDVに耐えられなくなって逃げてきたの。しばらく置かせて』
そう言って、歳になる息子の蓮斗を連れて現れた義妹は、最初こそ殊勝な態度を見せていた。 だが、荷物を運び込んだ翌週には、リビングの番当たりのいい所をが物顔で占領した。 昼過ぎまでせんべい布団で寝そべり、にはコンビニのパスタの空き容器とストロングゼロの空き缶が転がるようになった。
取り万の康平の料と、私の万のパート代。 歳と歳の幼児を抱え、が暮らすには、あのDKの県営団はあまりにも狭く、計は常にのだった。 それでも私は、耐えていた。 康平の妹だから。きのない母子を追いすわけにはいかないから。
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波をてず、耐えてさえいれば、いつか志織も仕事を見つけててくだろうと、自分に都のいい言い訳をねていた。
だが、違は徐々に、確実に、活の隙に澱のように溜まっていった。
最初に気づくべきだったのは、活費の消滅だった。 毎、康平から渡しされていた費と費の万円が、ヶから『今、営業の修理代で引かれた』『会社の懇親会がなった』と理由をつけられ、万になり、万になり、先にはとうとう円も渡されなくなった。
私がパート代から削りして、なんとかい繋いでいた。 もやしと豆腐でカサ増ししたおかずを並べる私の横で、志織はUber Eatsで頼んだ牛丼やピザを、蓮斗と緒にリビングで平然とべていた。 その代を払っていたのが誰なのか、今の私には痛いほどよく分かった。
そして、陽菜への扱いだった。
先、陽菜が突発性発疹で度のをした夜のことだ。 泣き叫ぶ陽菜を抱いて、私が夜救急へこうと準備していた、志織は寝の引き戸を乱暴にけて鳴り散らした。
『うるさいんだけど! 蓮斗が起きちゃうでしょ! 母親なら泣き止ませるくらいしなよ、領悪いわね!』
その、リビングのソファにいた康平は、スマホの画面を見たまま、度も陽菜を見ようとしなかった。
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それどころか、ため息をついてこう言ったのだ。
『、であやしてこいよ。所迷惑だろ』
自分の娘が、で痙攣しかけているというのに。 あの、私の全を駆け抜けた悪寒の正体を、なぜもっとく突き詰めようとしなかったのか。
さらに、週の夕方の景が、鮮に脳裏をよぎる。 パートから戻ると、陽菜の首についていたはずの、アンパンマンの虫除けシリコンバンドが消えていた。 所のドラッグストアで、陽菜がぐずったに奮発して買った、百円のキャラクターものだった。 探していると、リビングので寝転がっていた蓮斗の首に、そのバンドが巻かれていた。
私が『それ、陽菜のなんだけど……』と声をかけると、キッチンのカウンターでマニキュアを塗っていた志織が、で笑ったのだ。
『たかが百円のオモチャでしょ? 蓮斗が気に入っちゃったんだから、いいじゃん。さんって本当に器がさいよね。だからお兄ちゃんにも息苦しがられるんだよ』
その言葉の奥にあった、奇妙な優越。 の持ち物を、当然の権利のように奪い取ることに慣れきったの、底浅い嘲笑。 あの虫除けバンドは、ただの序章に過ぎなかったのだ。 彼女たちは、私の持ち物を、私の娘の居所を、しずつ、堀を埋めるようにして奪う練習をしていたのだ。
私は、膝ののトートバッグに線を落とした。 底板をカッターで裂いて取りした、緑の母子健康帳。