"名前を消された入園届" 第12話
キーボードが表示される。 親指をかそうとした瞬、父の太いが、私のスマートフォンの画面をから覆い隠した。
「返信はらん」
父の声は、く、絶対だった。
「文字を残すな。向こうが焦れば焦るほど、勝にボロをす。おが反応すりゃあ、相に対策のを与えるだけだ」
「でも……お父さんのところに乗り込んでくるって……」
「来させりゃいい」
父はたくを鳴らした。
「、線の現で荒くれ者どもを束ねてきたんだ。あんな、の褌でしか相撲の取れん僧っ子のや、叩き潰すなんぞ造作もねえ。それより、」
父の線が、私の胸元の奥、眠り続ける陽菜に向けられた。
「あいつらは、今夜にどうしてもかなきゃならん理由があるはずだ。母子帳のがないと分かった今、別のを使ってでも、曜の朝までに堀を埋めようとする」
「別の……?」
そのだった。
ピロリン、ピロリン。
今度は、父の作業ズボンのポケットから、聞いたこともない単音の子音が響いた。 父が取りしたのは、塗料の剥げ落ちた、古いドコモのガラケーだった。 父は慣れないつきでヒンジをき、液晶画面を覗き込んだ。
画面には「着メール1件」の文字。 差の名を見た父の眉が、わずかにピクリといた。
「……団の自治会のババアからだ」
父は画面をスクロールした。
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私も、父の肩越しにその粗い液晶画面を覗き込んだ。
件名:『誠さん、ちょっとこれ見て』 本文はだけだった。 『さっきゴミしにった帰りに見かけたんだけど、これ、康平さんと妹さんじゃない? こんなの、何やってるのかしら』
本文のに、枚の画像が添付されていた。 暗と灯の逆で、酷くノイズのった、スマートフォンのカメラで盗み撮りされたような鮮な写真。
がアスファルトを黒く濡らす、夜の角。 背に写っているのは、見覚えのあるコンクリートの建物だった。 埼玉の、私たちがむ区の区役所。 その裏にある、通用の脇。
ひとつの透なビニール傘のに、つのが並んでっていた。
濡れそぼったスーツの背。猫背で、落ち着きなく周囲を見回している男。康平だった。 そしてその隣には、派なピンクの傘の柄を握り、片に分い茶封筒を抱えた女。志織だった。
がっている所のすぐ目のには、ステンレス製の、郵便ポストのような投函がをけていた。
『夜文投函』
閉庁、戸籍届や民票異などの緊急類を、翌庁の受付分として投函するための、役所のポストだった。
写真ので、康平のが、その茶封筒の端を掴んでいた。 みのある封筒の表には、黒の油性マジックで、きな文字がかれているのが、灯のに反射して辛うじて読み取れた。
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『民異届(職権消除申請)』 『児童保護養育困難・配偶者失踪申告』
康平の指先が、今まさに、その分い封筒を、ポストの暗い隙へと力づくで押し込もうとしていた。
傘のから覗く志織の横顔には、歪んだ、醜い笑みが張り付いていた。
背骨の奥を、氷の刃で気に突き刺されたような覚がった。 母子帳がないなら、帳ごと私を「しなかった」にする。 警察への捜索願すらさず、夫の単独申てによって、妻の民登録を職権で制抹消させるための類。
曜の朝を待たず、今夜、のに紛れて、彼らは私を法に「消」しようとしていた。
曜の未からり始めたは、夜がけても勢いを緩める気配がなかった。
造アパートのい波板トタンを叩く音は、まるで無数のさな砂利を投げつけられているかのように激しく、鼓膜の奥を絶えなく削り取っていく。 部の隅に置かれた油ストーブは、油のサインをらせる赤い点滅を繰り返していたが、父も私もそれを無していた。
午分。 畳の畳のには、父がどこからか探ししてきた古い油性マジックと、茶封筒、そして昨私がトートバッグの底から守り抜いた、陽菜の緑の母子健康帳が置かれていた。
「、これをけ」
父が座卓のに滑り込ませたのは、役所のホームページから印刷してきたとおぼしき、枚のたいA4用だった。