"名前を消された入園届" 第14話
『夫による無断の利用辞退届の提、および配偶者失踪申告の恐れあり』……これですね」
「そうだ」
父が言った。
「その夫が、昨夜のうちに、ここの裏の夜投函に類をねじ込んどる。茶封筒だ。『民異届・職権消除申請』とかれたやつだ。回収して、今ここで照しろ」
「え……しかし、投函の扉は原則として平の庁、警備員と主幹のち会いのもとで……」
「偽造印私文の使だぞ」
父の声は、鳴るようなきさではなかった。 だが、そのく沈んだ響きには、相の言い訳を完全に圧殺するだけの、現のみがあった。
「本が目のにきとるんだ。その本が『してはおらん、名を使われた』と訴えとる。曜の朝まで放置して、誤って算処理に回ったら、誰が責任を取るんだ。あんたか? それとも、曜の朝にてくる課か?」
職員の喉仏が、ゴクリとした。 公務員が最も恐れるのは、自らの判断ミスによって「事に取り返しのつかない瑕疵」が発することだ。 男は「々お待ちください」とく告げると、奥の内線話を取りげ、どこかへ声で連絡を入れた。
分。 奥の通用から、もう、宿直責任者の腕章を巻いた配の男が現れた。 の職員は、鍵の束を持ってロビーの裏へと消え、数分に、のアルミケースを抱えて戻ってきた。
広告
ケースのから取りされたのは、で端がし波打った、あの分い角形号の茶封筒だった。 昨夜、自治会のガラケーの写真に写っていた、あの封筒。
職員が、ゴム袋をはめたで封筒の糊付けをカッターで切り裂いた。 から滑りてきたのは、数枚の公申請用だった。
『民異届』 『配偶者詳・所申述』
その番。 届の署名欄に、私の名がかれていた。
『横瀬 』
ボールペンの跡は、らかに私の字ではなかった。 角張った、妙に震えた線。康平が、私の名を真似てこうとしたの、自然な圧の痕跡。 そしてその横には、朱肉で真っ赤な丸が押されていた。
百円ショップで買える、印の浅い、物の「横瀬」の文判。
「……酷いな」
配の職員が、わずといったに呟いた。 実印登録されている印鑑の印とは、縁の太さも文字の配置も、素目に見てもまるで違っていた。 だが、もし父がいなければ。 もし私が昨夜、絶望して布団ので泣きかしていたら。 曜の朝、量の処理類のに紛れ込んだこの切れは、何件もの届と緒に械にスキャナーに通され、私の民票は「消除」のステータスへと送られていたかもしれないのだ。
「確認しました」
若い方の職員が、端末のキーボードを激しい音をてて叩き始めた。
広告
カタカタカタ、ターン。
「横瀬様ご本からの『受理申』、ただいまシステムに登録完いたしました。これにより、本以、ご本様の顔写真付き分証の提示がない限り、配偶者様や第者からの民異、世帯分、戸籍謄本の請求、ならびに職権消除に関わる切の申請は、窓および郵送・投函を問わず、全国の自治体システムで完全にブロックされます」
ガシャン、となスタンプの音が、たいカウンターに響いた。 職員が差ししてきた複写の控え用には、鮮やかな赤い角印で、『受領・受理申登録済』の文字が刻まれていた。
私は、そのを両で受け取った。 指先が、まだ微かに震えていた。 けれど、それは恐怖の震えではなかった。 私と陽菜のが、社会の記録から消しられるのを、自分のでい止めたという、たくい実だった。
「投函されたこちらの偽造類式は、証拠品として曜に保育支援課および福祉監察課へそのまま引き継ぎます」
配の職員が、鏡の位置を直しながら言った。
「お母さん、よく今来られましたね。これ、曜の朝に械を通されていたら、取り消しの続きだけで何週もかかるところでしたよ」
「……ありがとうございました」
私はくをげた。 ロビーをると、はさらにまっていた。
だが、胸の奥を塞いでいた鉛のような圧が、ほんのしだけ削り落とされた気がした。
アパートへ戻ったのは、午だった。