みかん小説
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"名前を消された入園届" 第15話

に入り、濡れたコートを脱いだ瞬、私のポケットのでスマートフォンが狂ったように震えした。

画面を見ると、表示されていたのは康平の番号だった。

「……なくていい」

父が陽菜を座布団のろしながら言った。 だが、着信は度切れても、髪を入れずに再び鳴り始めた。 度、度、度。 液晶画面のバックライトが、部暗い井をチカチカとに照らし続ける。

度目の着信で、私は父の制止を待たず、通話ボタンをスワイプした。 ただし、には当てない。 座卓のに端末を置き、スピーカー通話に切り替えた。

『――おい!! !! てめえ、何しやがった!!』

スピーカーから破裂音のようにしてきたのは、康平の、喉が裂けんばかりの絶叫だった。

静かなに、夫の醜い声が響き渡る。 陽菜がビクッと肩をげ、そうに私の裾を握りしめた。

『さっき区役所のいから連絡があったぞ! お、今朝役所にきやがったな!? 受理申だぁ!? ふざけんなよ! 誰の差しだ! あのアパートのクソジジイか!?』

話の向こうから、激しい音が聞こえていた。 康平はを運転しているようだった。荒い息と、ハンドルを苛たしげに叩く鈍い音が混ざる。

「……何か用?」

私は、できる限りく、を削ぎ落とした声で返した。

『何か用だあ!? 取りげろ! 今すぐ役所に戻って、あのを取りげてこい!! おのせいで、曜の申請が全部止まるんだよ! 蓮斗の枠が取れなくなるんだぞ!』

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「蓮斗くんの枠?」

私はたく問い返した。

「陽菜の保育園の枠でしょ。どうして志織さんの息子のために、陽菜の所を奪うの? どうして私のお昼寝布団の名を切り裂いたの?」

瞬、受話器の向こうが息を呑むような沈黙に包まれた。 図を突かれたの、狼狽の気配。 だが、康平はすぐにそれを、より凶暴な声で塗りつぶそうとした。

『うるせえ! あいつはひとり親で困ってんだよ! おみたいに実に逃げ込める分じゃないんだ! しは内の痛みを分かちえねえのかよ!』

内?」

私のから、乾いた笑いが漏れた。

「私のおを全額、無断でサラに振り込んだ内? 陽菜の当を奪った内が、何言ってるの?」

は……で返すつもりだったんだよ!』

康平の声が、徐々に擦り、裏返り始めた。 りではない。 底れぬ焦りと、恐怖が、その声の端々からボロボロと零れ落ちていた。

『頼むよ、……取りげてくれよ……頼むから……』

突然の豹変だった。 鳴り散らしていた男が、今度はスピーカーの向こうで、けなくをすすり始めた。

『俺、もうがないんだよ……。志織の元旦の借、俺が保証になってんだよ……。にあいつの正受が役所にバレたら、俺の会社にも連絡がくんだ。料も差し押さえられる。の連が、もう会社の駐まで来てるんだよ……! 曜の朝までに世帯をさせて、減免の続きを通さなきゃ、俺、本当に殺されるんだよ……!』

スピーカーから漏れる、浅ましい告

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涙声で、自分の保のためだけに妻にすがりつく男の醜態。

かつて私が「族」と信じ、その顔を伺い、嫌われないようにと自分を押し殺して仕えてきた男の正体が、これだった。 悪魔ですらなかった。 ただの、自分の撒いた種から逃げ回るために、の命を盾にすることしか考えられない、れで無力な寄虫。

「……私のったことじゃない」

! おい! お、見捨てる気か!? 俺たちは夫婦だろ!? 陽菜の父親なんだぞ!?』

「父親?」

私は、座卓のの母子帳を見つめた。

「陽菜が度のしたであやせって言ったのは誰? 昨の夕方、陽菜の靴を蹴ばして、に放りしたのは誰?」

『それは……あれは志織が……!』

度と、父親なんて名乗らないで」

私は親指で、赤い終話ボタンを押した。 プツン、という子音とともに、男の鳴のような叫び声は完全に遮断された。

すぐに着信拒否のリストに番号を放り込み、端末を裏返して座卓に置いた。 部に、再びトタン根を叩く音だけが戻ってきた。

父は何も言わず、ただ静かに、ストーブのに置かれたやかんからる湯気を見つめていた。 その沈黙が、私には何よりもありがたかった。

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