"奪われた十八年の通帳" 第1話
国号線のバイパス沿いは、夜がけるから型トレーラーの響きで揺れる。
トントラックが減速もせずに鉄の継ぎ目を踏み越えるたび、 私が暮らしてきたプレハブ平のトタン壁が、刻みに軋んだ。
ピシ、ピシ、と何かが乾いて裂けるような音がする。 最初はその音に怯えて夜に何度もね起きたものだったが、いつからか、それが古くなった建具の鳴りなのか、自分の奥歯がすり減る音なのか、区別がつかなくなっていた。
。 気温は度。 吹きさらしの荷捌きには、昨夜のが凍りついた黒い氷がく張っている。
「おい、登紀子。いつまでぇ止めてんだよ。酒のトラック、もう裏に着いてんぞ」
吐く息をく尖らせながら、事務所のアルミサッシを乱暴にけたのは敏之だった。 私の夫であり、この「貨物・湾岸第継所」の請け配主任だ。
彼の着ているスーツは、量販のワゴンで叩き売られていた化繊の黒だった。 襟元や肘のあたりが、アイロンの当てすぎで自然にテカテカとっている。 ここ数で急激にたるんだ顎のには、通販で買ったという物のシルクタイが、首を絞めるようにきつく巻かれていた。
「今、運ぶから。先に伝票に判だけ押して」
私は元のかかとが割れた全靴を踏み直し、褪せた紺の防寒ドカジャンのジッパーを首元まで引きげた。
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袋をした指先は赤黒く腫れがり、あかぎれから滲んだ血が軍の繊維にこびりついて固まっている。
「いちいち指図すんな。判なんざでいいんだよ。今はに度の組の納会だぞ。親会社の役員連も顔すんだ。俺の顔に塗るような真似だけはすんなよ、マジで」
敏之はそう吐き捨てると、のキーを指先で回しながら、事務所の奥へと引っ込んだ。 の効きすぎたプレハブの内から、灯油ストーブの焦げた匂いと、缶コーヒーの甘ったるいりが漏れてくる。
私は黙って頷き、荷台からろされたサッポロ黒ラベルの本入り瓶ケースにをかけた。 ひと箱でキロ。 膝を曲げ、腰を落とし、腹の底に力を込めて持ちげる。 え切ったプラスチックの角が、擦り切れた作業ズボンの太ももに容赦なくい込んだ。
この継所に来てから。 私は毎、こうして物を運んできた。 米袋、械部品、ドラム缶、解体用の材。 敏之が「主任」という肩きをに入れてから、現の力仕事はすべて私の役目になった。 敏之は事務所のパイプ子にふんぞり返り、無線で入りする距ドライバーを鳴り散らすのが仕事だった。
「俺は脳労働だからな。おみたいに学のないやつは、体かして稼ぐしかねえんだよ」
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それが、結婚してが過ぎた頃から彼が癖のように吐く言葉だった。
両で箱のビールケースを抱え、会となる継所階の組詰所へ続く鉄骨階段をがる。 錆びついたすりが、私のみでぎしぎしと鳴をげた。 膝の骨が擦れうような鈍い痛みが、骨の芯まで響く。
詰所の引き戸をけると、烈な気と煙が顔に叩きつけられた。
「うわ、寒っ。ドアけっ放しにすんなよ」
入ってすぐのテーブルで、すでに缶チューハイのプルタブをけていたのは、事務員の玲奈だった。 代半ば。 この、敏之が「がりない」と言って勝に採用した女だ。
彼女は、現の誰も着ないようなオフホワイトのフェイクファーコートを肩から羽織り、いピンクのニットワンピースを着ていた。 指先には、派なラインストーンがびっしりと埋め込まれた付け爪。 そので、油で汚れた業務誌を無造作にめくっている。 部のには、彼女が振りまいたっぽいバニラのが、男たちの汗とタバコの煙に混ざりって、吐き気を催すような甘さで澱んでいた。
「あ、奥さん。ビール、そこの壁際に積んどいてくださーい。あ、あと、ぬるくなると困るから、氷張ったタライに半分入れてもらえます?」
玲奈は私の顔も見ずに、スマートフォンの画面を指で弾きながら言った。
その声には、請けの増作業員を「タダの雑用係」