みかん小説
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"奪われた十八年の通帳" 第4話

その底に揺。 私は微かに、唇の端だけでさく首を横に振った。

『今は、黙っていなさい』

声にはさないその図を、半世紀にわたって修羅をくぐり抜けてきた老は、確かに受け取ったようだった。

田会は喉仏をさせ、ごくりと唾をみ込んだ。 そして、額に浮きた血管を抑えるようにを当てると、わざとらしいきな咳払いをした。

「……あ、ああ。す、すまん。失礼した」

の声は、まだ微かに震えていた。

「いや……昔、変世話になった……の娘さんに、面があまりにも似ておられたものでな。トシのせいで、目が霞んだようだ。おい、誰か雑巾を持ってこい。せっかくの酒を無駄にしてしまったな」

取り巻きの連が慌ててし、の破片と酒を拭き取り始めた。 堵の笑い声が、ぎこちなく部に戻ってくる。

だが、私の隣に戻ってきた敏之の顔は、りで黒ずんでいた。

「……チッ、何が『違い』だ。気の悪い」

敏之は私の元で、奥歯をギリギリと鳴らしながらく囁いた。

「おがあんなボロ雑巾みたいな格好で突っってるから、会が気悪がって酒こぼしたんだろ。とんだ赤っ恥だ。おい、もういいから先にってろ。キーはいてるからよ」

私は何も言わず、もう度だけ田会に向かってげ、詰所の引き戸にをかけた。

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戸を閉める直、玲奈のややかな嘲笑が、背に突き刺さった。

「ねえ敏之さん、今の何? 『お嬢さん』だって! ウケる。あんな油臭いおばさんがお嬢様なわけないじゃんねー!」

男たちの卑た笑い声が、それに唱するようにトタンの壁を揺らした。

ると、国からの吹き抜けるが、頬の皮膚をナイフのように切り裂いた。 呼吸をすると、たい気が肺の奥を突き刺す。

私は、砂利の敷かれた駐まっている、敏之の古いクラウンに向かって歩いた。 落ちの、と緑のツートンカラー。 敏之が「主任のプライド」だと言って、で無理なローンを組んで買っただ。

席のドアをけて乗り込むと、内は凍庫のようにえ切っていた。 シートには、敏之の吸うのヤニと、玲奈のバニラのが、混ざりってべっとりと染み付いている。

私は震えるをコートのポケットに入れ、くなった指先を擦りわせた。

『まかべのお嬢さん』

田会の、あの震える声がの奥で反芻される。

真壁。 それが、私の本当の苗字だった。 、この湾岸の埋がただのだった頃、の物流を支えるために私財を投げ打ち、この国沿いに最初の型トラックターミナルを築きげた男。 真壁剛造。 それが、私の父だった。

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父は、過酷な労働に倒れるドライバーたちのために組を作り、事故で親を失った子供たちのための基を作った。 田会もまた、若い頃に父に拾われ、トラック台からを起こした男のだ。

だが、私はその過を、敏之には言も話していない。 、親の威目当てではなく、ただ私というを見てくれていると信じて、て敏之と結婚したからだ。

「俺は、おで、さくてもあったかい庭を作りたいんだ。なんざなくても、俺が汗垂らして、おわせていくから」

あのの敏之の、油にまみれたと、実直そうに見えた笑顔。 あれは、すべてだったのだろうか。

男が変わるのに、そうはかからなかった。 さな運送会社の平ドライバーから、請けの継所主任へと肩きが変わるにつれ、敏之は酒と見栄に溺れていった。 で「主任」と呼ばれるに酔いしれ、では暴君のように振るうようになった。

そしてに敏之の父がに、認症の初期症状が始めた義母の静子が転がり込んできてから、私の活は完全に崩壊した。

「誰のおかげで根のあるめてるとってんだ!」 「子供も産めないような穀潰しを拾ってやった恩を忘れやがって!」

脳梗塞でが麻痺した静子は、、トタン根のプレハブの万から私を鳴り散らした。

事のいと碗を投げられ、オムツの替え方が乱暴だと腕を抓られた。

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