"奪われた十八年の通帳" 第8話
彼らはらない。 この国沿いのが、体誰のものであるのかを。 そして、私がこれまで何をみ込み、何を耐え忍んできたのかを。
すべてを奪うつもりなら、奪い返させてもらう。 彼らが積みげてきた、嘘と虚栄と罪悪でできた砂のを、その台ごと、跡形もなく叩き潰す。
私はえ切った作業用ゴムホースの蛇を固く締め、暗の、プレハブの勝へとゆっくりと歩きした。
午分。
トタン壁の隙から吹き込むが、台所のいビニールカーテンをたく膨らませていた。 アルミサッシの内側には、内の湿気を吸った結がびっしりと付き、部の劣化したゴムパッキンに沿って黒カビの斑点を濡らしている。
私は、かじかんだ指先での蛇を捻った。 錆びた鉄パイプの奥でゴボリと鈍い音が響き、濁った井戸が細く流れ落ちる。 骨の芯まで凍りつくようなたさが、昨夜の洗で擦り切れた指の裂け目を突き刺した。
トントントン、と。 歪んだプラスチックのまな板ので、筋張った根を刻む音だけが、暗い台所に反響する。 換気扇は油煙で目詰まりを起こし、スイッチを入れるたびに「ブー」という周波のうなり声をげて、壁の板を微かに振させていた。
プロパンガスの青い炎に鍋をかけ、業務用の売り噌を溶く。
広告
汁のりすらたない、塩気ばかりが尖った噌汁。 これが、佐藤の変わらない朝の匂いだった。
「……おい。茶」
居の引き戸が乱暴にき、すえた寝息とアルコールの臭気と共に、敏之が入ってきた。 グレーのスウェットパンツの膝は擦り切れて伸び、素に突っ込んだゴムサンダルを引きずっている。 首筋からは、昨夜の納会で嗅いだあの甘ったるいバニラのが、寝汗と混ざりって、吐き気を催すような濁った匂いとなって漂っていた。
「今、します」
私は振り返らず、湯呑みにぬるい番茶を注いで卓に置いた。 テーブルの央には、昨晩の残りのひじき煮と、黄く変した古沢庵が切れ。
敏之は子を引くこともせず、どっかりと腰をろすと、スマートフォンの画面を指で弾きながら茶を啜った。 画面の反射が、彼の濁った目を青く照らししている。 その元には、私には決して見せない、だらしなく緩んだ笑みが張り付いていた。
「……ねえ、あなた」
私は噌汁の鍋をからろしながら、できる限り平坦な、抑揚のない声で切りした。
「ん? あんだよ」
敏之は画面から目をさない。
「昨の夜、クラウンを洗ったの。トランクを拭きげた、し変な匂いがしたけれど。……クーラント液、どこか漏れてるんじゃないかしら」
ピタリと。
広告
スマートフォンのを滑っていた敏之の親指が、静止した。
換気扇のい唸り声だけが、部の空気を削るように響く。 敏之の首筋の筋肉が、目に見えて張っていくのが分かった。 彼はゆっくりと顔をげた。 その目は充血し、瞳の奥に狂暴な警戒がギラリとっていた。
「……お、トランクの、触ったのか?」
「予備のボロ布を取ろうとしただけよ。奥の方から、妙に甘い薬品の匂いがしたから。にヒーターが効かなくなると困るでしょう。距をることもいんだし、備で見てもらった方がいいんじゃないかとって」
私は鍋を拭くを止めず、敏之の線を正面から受け止めずに言った。 常の些細な主婦の言。 そう装うことで、相がどこまで過剰に反応するかを測るための、針の先ほどの試だった。
だが、敏之の反応は、私の予を遥かに超えて暴力だった。
ガシャン!
甲い破裂音が、静まり返った台所に響き渡った。 敏之が元の湯呑みを、板の卓に力任せに叩きつけたのだ。 物の陶器が真っつに割れ、茶の茶渋を含んだ液体が、私の元と、皿のの沢庵めがけてび散った。
「誰が余計なことしろっつったあ!」
敏之がちがり、パイプ子がろのトタン壁に激突してきな音をてた。 彼の顔は、首筋まで赤黒く鬱血している。
「のメンテなんざ俺の仕事だろうが! トラックの油まみれになってるような女が、ったな利いてんじゃねえぞ! トランクののもんは、会社の現から引き取ってきた廃材のサンプルだ! テメエが勝に触っていいもんじゃねえんだよ!」