"奪われた十八年の通帳" 第10話
埃の匂い、古のすえた匂い、そして敏之が隠れて吸っている煙のヤニ。
部の央には、事務所で廃棄処分になった古いスチールデスクが置かれていた。 その元、の湿気で錆が浮きた、緑の具用キャビネット。 引きしの最段には、真鍮製の京錠がかけられていた。
敏之は用い男ではなかった。 ただ、自分以のを根底から見しているため、「まさかこの愚鈍な妻が、自分の領域に踏み込むはずがない」とを括っているだけだった。
私はキャビネットの横、埃をかぶった『型特殊両備領』の分い背表にを伸ばした。 指先を背表の隙に差し込む。 指腹に、カチリとい属の触が触れた。
セロハンテープで貼り付けられていたのは、さな平たいの鍵だった。
鍵穴に差し込み、へ回す。 カチリ、と油の切れたい音がして、錠がれた。
属が擦れう鈍い音をてて、引きしをに引く。
番に無造作に置かれていたのは、冊の通帳だった。 元信の、緑の表。 名義は『佐藤敏之』。 だが、その座の実態を、私は骨の髄までっていた。
、結婚した翌から、敏之が「老のために」と言って私に作らせた共同座だった。 敏之の料からは銭も入っていない。 私が夜の荷捌きと、保コンテナの清掃という、誰もが嫌がる過酷な夜勤当を積みててきた座だった。
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は気がこもる鉄板ので脱症状になりかけ、は凍りつくドラム缶に張り付いた皮膚を引きちぎりながら、毎、万円、万円と、郵便局の窓から振り込んできた。
「これでになったら、キャンピングカーでも買って、本をのんびり回ろうな」
かつてそう言って笑った敏之の言葉を信じ、私は自分の着枚調せず、擦り切れた作業着を繕いながら、この通帳に数字を刻んできたのだ。
積予定額は、百万円を超えているはずだった。
私は震える指で、通帳をいた。
最終ページの印字が、目にび込んできた。
残:41,280円。
界が、グラリと揺れた。 喉の奥から、乾いたヒッという音が漏れる。
ページをめくる。 黒い磁気インクの印字が、酷な現実を告げていた。
814 オロシ 500,000 92 オロシ 1,000,000 1018 オロシ 800,000 115 オロシ 1,500,000 1212 オロシ 1,200,000
半。 たった半で、私が、夜の気ので削り取ってきた命の対価が、綺麗さっぱり消え失せていた。 引きしの付は、敏之が「主任業務の研修」と称して泊を繰り返すようになった期と、完全に致していた。
級料亭の支払い。 あの女に買い与えたブランドバッグ。 元町の宝飾で買った万円のペアウォッチ。 そのすべてが、私の血と脂で購われていたのだ。
「……っ」
りよりも先に、激しい嘔吐がこみげてきた。
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私は元をで押さえ、荒い呼吸をえるために必に奥歯を噛み締めた。 泣いてはいけない。 ここで取り乱せば、すべてが終わる。
私は通帳を置き、引きしのさらに奥へとを突っ込んだ。
指先に触れたのは、透なクリアファイルだった。 に入っていたのは、数枚の公な類。 表には、太いゴシック体でこう印刷されていた。
『産価格査定・建物式』
査定対象の所は、今、私がっているこの所だった。 継所の敷の角にある、このプレハブのと建物。 査定額:3,800万円。 依頼者の欄には『佐藤敏之』の名が記されていた。
さらにそのから、つ折りにされたカラー印刷のパンフレットが滑り落ちた。 群馬県の部にある、民を改装した無認の介護施設『やまびこ苑』の案内図だった。 額利用料:万千円(管理費・費込み)。 建物の写真には、剥がれかけた壁と、暗い部に並べられたパイプベッドが写っている。
そのパンフレットの余に、正方形のピンクの付箋が貼られていた。 丸みを帯びた、あの玲奈の文字。
『敏之さんへ♡ お義母さんの施設、ここならだけでギリギリいけるよ! 浮いたおとを売ったおで、駅の築マンションにしよーね。 く続きめてね♡』
目のが、真っになった。
敏之は、私を捨てるだけではなかったのだ。