"奪われた十八年の通帳" 第21話
国沿いのバスから臨港バスに乗り、みなとみらいの超層ビルへと向かった。 窓のを流れる景が、埃っぽい倉庫から、然としたガラス張りの代な並みへと切り替わっていく。 その無質な清潔さが、私の指先に染み付いた械油の黒ずみを、より層際たせているようにじられた。
午分。 港運本社ビルの正面エントランス。
見げるような吹き抜けのロビーの柱のに、トレンチコートを着た沢田弁護士がっていた。 私の姿を認めると、彼はわずかに顎を引いて歩み寄ってきた。
「準備はいました、登紀子さん」
沢田弁護士のい声には、微の迷いもなかった。
「階の会議です。現、第部の事業計画報告が終し、休憩に入っています。分から、佐藤敏之のプレゼンが始まるはずです」
「田会は?」
「役員席の最列にいらっしゃいます。……きましょう」
関係者専用のエレベーターが、かすかな振と共に急速に昇していく。 真鍮のすりに映る自分の顔を見つめながら、私はく息を吸い込んだ。 肺の奥が、たい緊張で張り詰める。
階で扉がくと、の絨毯が敷き詰められた静謐な廊が伸びていた。 突き当たりのなマホガニーの扉の向こうから、マイクを通した男の声が、微かに漏れ聞こえてくる。
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『――以の施策により、来期の湾岸区における継コストは、実にパーセントの削減を達成できる見込みであります!』
聞き慣れた、あの傲で、滑りした敏之の声だった。
沢田弁護士が扉のにつ警備員に目配せをすると、警備員は無言で会釈し、い防音扉をわずかに押しけた。 私たちは音を殺し、広な会議の最列、傍聴席の暗がりへと滑り込んだ。
正面の巨なプロジェクタースクリーンには、美しくえられた棒グラフと円グラフが映しされていた。 壇には、マイクを握りしめ、胸を張ってつ敏之の姿。 その横の演台には、体にぴったりと沿ったタイトスカートにいヒールをわせた玲奈が、タブレット端末を操作しながら、得げな笑いを浮かべて控えていた。
とも、の頂点にっていた。 会を埋め尽くす名以の請け社や親会社の幹部たちが、自分たちの言葉にを傾けている。 その線を浴びながら、敏之は自分が「選ばれたエリート」であるという陶酔に、完全に酔い痴れていた。
「……私は、この臨区で、現のを啜りながら、叩きげでやってまいりました」
敏之は芝居がかったつきでネクタイを直し、壇から役員席を見ろした。
「古い慣習に縛られ、無駄なコストを垂れ流す代は終わりました。
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これからは、徹底した現の管理、無駄な員の排除、そしてクリーンで透性のい運体制こそが、が港運グループの未来を切り拓くのであります!」
敏之が礼すると、会から儀礼な拍がパラパラと沸き起こった。 敏之は満そうに元を歪め、隣の玲奈と目配せを交わした。 その瞳には、「勝った」という確信がギラギラとっていた。
「素らしいプレゼンでしたよ、佐藤主任」
役員席の央、マイクのスイッチを入れたのは、髪を綺麗に撫で付けた親会社の常務取締役だった。 その隣には、腕を組み、微だにせずに壇を睨みつけている田会の姿があった。
「現の無駄を排除し、クリーンな運体制を敷く。……誠に結構な志だ。だがね、佐藤君」
常務の声は、凍りつくようにかった。
「君の言う『透性』について、しばかり、こので確認させてもらいたいことがあってね」
常務が卓のベルをチリンと鳴らした。 その乾いた属音を図に、会議の側面のドアがき、紺のスーツを着た数の男たちが入ってきた。 法務監査の調査員たちだった。
彼らは無言のまま、役員や席者たちの机のに、ずしりとみのある黒いフラットファイルを次々と配り始めた。 最に、壇の敏之と玲奈の目のにも、そのファイルが叩きつけられるように置かれた。
表に印字された太い文字。
『貨物・湾岸第継所における正流用および背任為に関する調査最終報告』