"奪われた十八年の通帳" 第23話
にへたり込んだ玲奈の顔が、屈辱とりで真っ赤に染まった。 ストッキングが破れ、剥きしになった膝から血が滲んでいる。 彼女はをいずるようにしてちがると、髪を振り乱し、鬼のような形相で敏之にびかかった。
「嘘つき!!」
玲奈の鋭い爪が、敏之の頬を激しく引き裂いた。 ツッと赤い血の筋が、敏之のテカテカる頬にる。
「テメエ、何しやがる!」
「あんたが『俺のハンコで全部落とせばバレない』って言ったんじゃない! 伊豆の旅館だって、あんたが予約したんでしょうが! 全部あたしのせいにして逃げる気!? この卑怯者!」
「黙れ! この棒猫が!」
は役員たちの目ので、互いのを掴みい、を転がり回って罵りった。 髪を引っ張りい、唾をばし、喚き散らす。 先ほどまで「最のパートナー」として壇で微笑みっていた男女の成れの果てが、そこにあった。
「見苦しい真似はやめんか!!」
田会の、のようなが轟いた。
を過ぎた老の放つ凄まじい威圧に、はビクッと体を直させ、に転がったままきを止めた。 敏之のスーツの襟は引き裂かれ、玲奈のフェイクファーは無残に引きちぎられて絨毯のに散らばっていた。
「……醜いな」
田会は吐き捨てるように言った。
「佐藤敏之。そして玲奈。……おたちの罪は、の横領だけでは済まされんぞ」
広告
田会が元のをめくると、スクリーンに、あの枚の写真が映しされた。
曲峠の底で破した、黄い軽トラック。 そして、そのフェンダーにい込んだ、と緑の塗料の拡写真。
玲奈の喉から、ヒッというい鳴が漏れた。
「未」
沢田弁護士が、氷のようにたい声で告げる。
「佐藤敏之のクラウンのトランクから押収された凍液の成分と、事故を起こした軽トラックのブレーキ配管内に残液していた成分のペーパーロック誘発物質が、科捜研の簡易鑑定で見事に致しました」
「あ……あ……」
敏之の顎がガタガタと震え、言葉にならない空気の塊が喉から漏れる。
「あんた……」
にへたり込んだ玲奈が、血った目で敏之を見げた。 その声は、恐怖で刻みに震えていた。
「あんた……弟の、本当にブレーキ細したの……? 『あいつが勝にスピードしすぎただけだ』って、あたしに言ったじゃない……!」
「ち、違う! 俺は……俺はただ、あいつに責任を被せて……!」
「あんたが殺したんじゃない!!」
玲奈が絶叫し、を叩いた。
「あんたが『借を返すために保険が必だ』って泣きついてきたから、あたしは弟の名義を貸したんじゃない! あたしを騙したのね! 殺し! 刑にしてやる!」
「テメエだって保険の百万、分けしてんでただろうが!」
もはや、の会話ではなかった。
広告
互いの首を絞めい、罪を擦り付けう匹の害獣が、沼ので喚き散らしているだけだった。
方のドアがき、屈な制警官と、港湾警察署の捜査課の刑事たちが静かに入ってきた。
「佐藤敏之、ならびに玲奈」
常務が徹に言い渡した。
「港運は、本付をもって貴様ら両名を懲戒解雇処分とする。また、横領全額の損害賠償請求、および殺、詐欺、業務過失致の容疑で、直ちに警察に柄を引き渡す」
刑事たちが歩み寄り、の肩にを置いた。
その瞬、敏之の両膝から完全に力が抜け、彼は絨毯のに両をついた。
「じょ……常務! 会! 待ってください!」
敏之はに額を擦り付け、涙とを垂らしながら絶叫した。
「は返します! 全額返しますから! 首だけは……逮捕だけは勘弁してください! 俺はなんです! 今ここを放りされたら、科者になったら、どうやってきていけばいいんですか!」
「どうやってきていくか、ですか」
私は、膝をついてすがりつく敏之のから、静かに言葉を落とした。
敏之がハッと顔をげた。 その目は充血し、絶望と狂気に濁っていた。
「と……登紀子! 頼む! おから常務に言ってくれ! 俺が悪かった! 魔が差したんだ! おとは別れない! 事にする! 宝にして拝むから!」
「昨の夜、あなたは私に言いましたね」
私の声には、片の揺らぎもなかった。
「『万円やるから、ボロアパートでも借りて野垂れね』と」