"毒を運ばされていた私" 第2話
あの瞬、清原さんが見せた差し。 それは羞恥などではない。 自分の内臓を掴まれそうになったが放つ、剥きしの防本能だった。
そして今朝、私は再びその部を訪れた。
玄関の引き戸には鍵がかかっていなかった。 用い清原さんが、無施錠でいることなど度もなかった。
「清原さん、入りますよ」
声をかけて靴を脱ぎ、居の襖をけた瞬、温かい空気とともに、かすかな異臭がをついた。
清原さんは倒れていた。 万から転がり落ちるようにして、畳のに突っ伏している。 肌は気に変し、触れた首は完全にたくなっていた。
救急を呼び、警察が駆けつけるまでのは、のにいるように現実が希だった。 サイレンの音が団のに反響し、野次馬が集まってくる。
臨した若い警察官と検官は、部のを瞥し、争った形跡がないことを確認すると、淡々と類にペンをらせた。
「事件性はありませんね。典型な急性全、孤独です」
警察官の言葉は、まるで夕方の気を告げるように平坦だった。 この団では、に度は起きる常茶飯事なのだろう。 持病の血圧、歳という齢、暮らし。 すべてのピースが、「自然な」という枠のに綺麗に収まっていた。
「寄りがないとのことですから、遺体は区の指定業者に搬送します。
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所持品の確認と部の引き払いは、自治会と相談してめてください」
午を過ぎる頃には、ストレッチャーに乗せられた清原さんの遺体は運びされ、部には私と、静まり返った埃っぽい空気だけが残された。
自治会の男が、玄関先でタバコを吹かしながら面倒そうに言った。
「清原さん、遺産なんてないだろうしな。部の片付け、悪いけどヘルパーさんの方で雑把にゴミまとめといてくれないか? 区役所の委託清掃が入るに、貴品だけ確認しとかなきゃならんから」
「……わかりました」
私は軍をはめ、ゴミ袋を広げた。 タンスのには、着古した肌着と数枚のセーター、っぺらな通帳が冊。残は万円にも満たなかった。 すべてが、貧しく慎ましい孤独な老の遺品そのものだった。
しかし、私のは自然と、あの所へと向かっていた。
万の敷かれていた畳の端。 に清原さんが異常な執着を見せた、敷居との隙。
腰を落とし、黒ずんだ布ガムテープを見つめる。 端がしめくれている。 私は周囲の気配を伺った。玄関のからは、折隣のが通り過ぎる音と、くをるトラックの音しか聞こえない。
呼吸を止め、ガムテープの端を指でつまんだ。
ベリベリ、と乾いた粘着剤が剥がれる音が、静まり返った部に嫌なほど響く。
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テープを剥がすと、畳と敷居の隙が、カッターナイフのようなもので無理やり削り広げられているのが分かった。 さは数センチ。 その暗い枠の裂け目に、何かいものが押し込まれていた。
指を突っ込み、探りで引きずりす。
埃まみれになっててきたのは、透なビニール袋だった。 厳にが折りたたまれ、輪ゴムで留められている。
に入っていたのは、枚の真鍮製の鍵だった。
古びて変し、角が丸くなっている。 鍵のには、刻印が打たれていた。
『国鉄 野駅 荷物預り所 第号』
国鉄。 その文字を見た瞬、背筋にたいものがった。
国鉄が民営化されてJRになったのは、以ものことだ。 そして、清原さんは、癖のように私に言っていたはずだった。
「私はね、若い頃に体を壊してから、この町から歩もにたことがないのよ。なんて、もうも乗ってないわ」
度も町をたことがないはずの老が、なぜ昭の代に消滅した駅の、それも荷物預り所の鍵を、畳の板を削ってまで隠していたのか。
ののたい真鍮のみが、私の掌にく沈んだ。
これは、ただの鍵ではない。 清原フミというが、私に見せ続けてきた「慎ましい老女」という仮面の裏側に潜む、得体のれない何かの入だった。
私は鍵をポケットにねじ込み、ちがった。 臓が激しく鐘を打っていた。