"側溝の底のGPS" 第5話
野さんは背を向け、きれいに束ねられた黄いネットを持ちげた。
「これ以、藪をつついて蛇をさないことね。寺内先の善を仇で返すような真似は、この町では通用しないわよ」
コツ、コツ、と、踵のい靴の音がざかっていく。 私はのたいが吹き抜けるゴミ集積所に、ただ取り残されていた。
誰も、触れようとしない。 誰もが、っているのだ。 何があったのかを具体にはらなくとも、「波をててはならない」「寺内先の領域に踏み込んではならない」という暗黙の掟が、この宅の脈のように張り巡らされている。
私は踵を返し、町れにあるの部事務所へと向かった。 自転のペダルを無で漕いだ。 太ももの筋肉が鳴をげ、たいが目尻を裂くように痛かったが、止まることはできなかった。
コンクリート造りの古い事務所の窓は、午の退屈な空気に満ちていた。 蛍灯のジーというい唸り声。 奥のデスクで、湯呑みを片に聞を広げている職員。
「あの、私の排管と側溝の、過の施図面を閲覧したいのですが」
窓の若い男性職員に、私は息を切らしながら分証を差しした。
「所は、神林町丁目の番です。のからにかけてわれた、管改修事の図面をお願いします」
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職員は億劫そうに端末を叩き、やがて線をディスプレイから私へと戻した。
「あー……神林丁目のあの区画ですね。私と公の境界部分です」
「はい。私のの敷に接している部分です。所者としての閲覧権があるはずです」
「いえ、奥さんね」
職員は困惑したように、しかし事務に首を振った。
「その事、施主が個……というか、当の自治会と共持分者代表の連名になってますね。者は、ええと、寺内様です。私の暗渠管に関する詳細図面は、共持分者全員の同がないと示できませんよ。個報保護と、構造の防犯基準がありますから」
「私が、その共持分者のです!」
「ですから、全員の同です」
職員は、アクリル板の隙から、枚の申請用を無質に押ししてきた。
「者である寺内様の署名捺印と、実印登録証を揃えてから、もう度お越しください。それと……その図面、備考欄に『指定業者による密配管あり』ってフラグがってますね。普通の事図面じゃないみたいですよ」
「密配管……?」
「さあ、当のことは分かりません。ただ、うちの管轄じゃなくて、民同士の覚で処理された事ですね。これ以は、当事者同士でお話しいいただくしかありません」
たく、完璧な、たらい回し。 公関の窓すら、あの男の名がた瞬に、滑らかな壁へと変わる。
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寺内先が敷いたレールは、宅の側溝だけでなく、この町の政の類棚にまで、何もの鍵をかけて潜り込んでいたのだ。
午を回り、宅に夕がりてきた。
に戻った私は、台所の気もつけず、暗がりのでち尽くしていた。 流しの。 曹や洗剤のボトルの奥に、ジップロックにに入れたあのGPS端末が隠してある。 目に見えないはずのそのプラスチックの塊が、キャビネットのを通して、ジリジリと私の背を焼き焦がしているようにじられた。
ピンポーン。
静まり返ったのに、インターホンの澄んだ子音が鳴り響いた。 臓がねがり、呼吸が止まる。
私は息を殺し、忍びで玄関のモニターを覗き込んだ。
魚レンズの向こうにっていたのは——寺内先だった。
仕てのいいチャコールグレーのカーディガンを羽織り、には何かの類が入った透なクリアファイルを提げている。 その表は、いつものように温で、慈に満ちた教育者のそれだった。
居留守を使おうか。 息を潜めたまま、爪をのひらにい込ませる。
ピンポーン。
度目のチャイムが鳴った。 続いて、カタ、と、郵便受けのフタが側からさく持ちげられる音がした。
「……志乃さん。いらっしゃるのは分かっていますよ」
ドア越しに響いてきたのは、く、穏やかで、しかし逃げを塞ぐような声だった。