"消された母親の席" 第11話
に散らばった葵の、踏み躙られた過問のプリント。 だが、それだけではなかった。
玄関の靴箱のに置かれていたはずの、私の私物がごっそりと消えていた。 父が私に遺してくれた、古い昭初期の裁縫ばさみ。な鋼で作られた、布を断つのシャキリという乾いた音が好きだった、父の形見だ。それが、用していた裁縫箱ごと無くなっていた。
リビングの掃きし窓から、階を見ろす。
アパートのゴミ集積に、見慣れない軽トラックが横付けされていた。 荷台には『用品即回収・クリーンサービス』の板。 作業着を着た男たちが、粗ゴミのを次々と荷台へ放り投げている。
その傍らに、腕組みをして仁王ちしている女がいた。 姑の静枝だ。
「ちょっと、そこの段ボールも全部持っておいき! に入ってるボロ布も、古いアルバムも全部ゴミだよ! にしておくれ!」
静枝の甲い声が、のる庭に響き渡っていた。
荷台の端に、見覚えのある箱が見えた。 父の裁縫箱だ。からびした鋼の裁縫ばさみが、濡れたアスファルトのに転がり落ち、鈍い属音をてた。
私の体が、勝にいていた。
部をびし、階段を気に駆けりる。 サンダルが脱げそうになりながら、のたいのへびした。
「やめて……! やめてください!」
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私はのに転がっていた父のはさみを拾いげ、胸にく抱きしめた。 刃先についたが、私のを汚す。
静枝が驚いたように振り返り、私を見るなり顔を醜く歪めた。
「真奈美! あんた、鍵をかけておいたのに、どうやって抜けしたんだい!」
「これは父の形見です! 勝に捨てる権利なんて、お義母さんにはありません!」
「権利だあ?」
静枝はズカズカと音を荒げて私にづくと、私の腕を力任せに掴んだ。 老女とはえないい力だった。爪が皮膚にい込み、激痛がる。
「あんたの父親がぬ際、うちの修平にいくら借を残していったか忘れたのかい! そのガラクタを処分して、部をけ渡す費用に充てるのは当然だろうが! さっさとその汚いハサミを渡しな!」
「嫌……! して!」
揉みうで、静枝のダウンジャケットのポケットから、つ折りにされた枚のがポロリと面に落ちた。
を含んだのに広がったそのの裏側に、赤鉛で殴りきされた文字が私の目にび込んできた。
『本・ルノアール宿。泰子を同席させること。百万の付で確実にサインを獲れ』
泰子——?
私の臓が、たい氷を浴びせられたように縮みがった。
泰子伯母さん。 両親をくにくした私を、を卒業するまで女つで育ててくれた、母のたったの姉。
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貧しい仕てだった父を助け、私の学の入学を用ててくれた、私にとって唯の肉親であり、恩のはずの伯母。
なぜ、修平たちのメモに、伯母の名があるのか?
「何を見てんだい!」
静枝が慌ててののメモを拾いげ、ポケットにねじ込んだ。 彼女の目は、焦りと悪で血っていた。
「いいかい、真奈美。今のまでに、宿のルノアールへ来なさい。そこで泰子さんと緒に、きっちり親権放棄の類に判を押すんだ。もし来なかったら……」
静枝は軽トラックの荷台をバンと叩いた。
「この荷台にある、あんたの父親の記も、葵の分の成記録も、全部そので焼却へ持ち込ませるよ。あんたのを、この世から跡形もなく消しってやるからね!」
静枝は作業員に図し、軽トラックの助席に乗り込んだ。 ディーゼルの黒い排気ガスを私の顔に吹きかけながら、トラックは猛スピードでアパートの敷をてった。
の、私はまみれのはさみを抱きしめたまま、ち尽くしていた。
。宿の喫茶ルノアール。 残されたは、あともなかった。
*
私は再び部へ戻り、修平の斎へとを踏み入れた。
畳半の狭い。 壁面の本棚には、本史の学術や慶の学覧が几帳面に並んでいる。 だが、私の狙いは本棚ではなかった。
押し入れの片隅に置かれた、修平が学代から使っているという、骨董品のような真空管ラジオ。