"消された母親の席" 第12話
修平はいつも「くなった祖父の形見だから、絶対にかすな」と言って、私に掃除すらさせなかった。
私はラジオの裏側に回り込んだ。 ドライバーを使い、埃をかぶった板の裏蓋のネジをす。
内部には、埃まみれの真空管と配線が複雑に入り組んでいた。 だが、スピーカーのコーンの裏側、を持たないはずの空に、黒いビニールテープで留められたさな包みがあった。
指先を突っ込み、テープをバリバリと剥がし取る。
からてきたのは、方の古い通帳冊と、学ノートの切れ端だった。
通帳の名義は、『条 修平』。 修平が、条の姓を名乗っている座?
ページをく。 そこには、過にわたる送記録が、規則正しく記されていた。
毎。 振込額:150,000円。 振込先:『御殿・希望の 佐久』
毎、万円。 私たちが活費を切り詰め、葵のお稽古ごとのために私が夜なべして内職をしていた、修平はこの謎の施設へ、毎欠かさず万円を送し続けていたのだ。
そして、緒に挟まれていた学ノートの切れ端。 そこには鉛で、修平の神経質な跡が残されていた。
『希望の、末にて閉鎖決定。受入先転院費用として千万円の求あり。期は。履の、の事故記録およびカルテの原本を警察および文部科学省へ送付するとの通告。
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——急に資産の換が必』
の事故? 千万円?
ので、警報が鳴り響いた。
。それは、慶初等部の格発表のわずかだ。 修平と綾が、なぜこれほど異常な焦燥に駆られて私を追いし、葵の親権を奪しようとしているのか。 すべてが繋がった。
この施設から脅迫されているのだ。 の何か——表汰になれば修平も綾も破滅するような致命な罪の証拠を握られ、千万円という莫な裏を求されている。 そしてそのを作るために、条の名ブランドと、葵という子供を利用して、何らかの巨な資をかそうとしているのだ。
計の針は、午を指していた。
私は通帳とメモをコートの内ポケットにねじ込み、部をびした。
*
午分。 宿駅のは、たいから逃れてきた々でごった返していた。
『喫茶ルノアール』のい製のドアを押すと、カランコロンと違いに軽やかなベルが鳴った。 ち込める煙の煙と、煎りコーヒーの苦いり。 ベルベットのい緑のソファが並ぶ内を見渡すと、番奥のボックス席に、そのはあった。
私のが、に縫い付けられたように止まった。
そこに座っていたのは、条綾でも、修平でもなかった。
な紺のウールアンサンブルを着て、さく背を丸めて座っていたのは、私の育ての親である、泰子伯母さんだった。
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伯母の膝のには、黒い革のハンドバッグが、まるで抱きしめるように置かれていた。 その隙から、の封筒の茶い角が覗いている。 みからして、百万円の束がつ。百万円の現だ。
「……伯母さん」
私が掠れた声で呼ぶと、伯母はビクッと肩をねさせ、恐る恐る顔をげた。 その目元は真っ赤に腫れがり、私を見るなり、線を泳がせてテーブルののナプキンを指先で弄び始めた。
「真奈美……来たのね」
私は向かいの席に滑り込んだ。 テーブルのには、すでにめきった杯のアメリカンコーヒーと、枚の類が置かれていた。
先ほどアパートで突きつけられたものと同じ、親権放棄と監護権委譲の承諾。 その末尾の『親族会』の欄には、震える跡で、すでに伯母の署名と捺印がなされていた。
「どうして……」私の喉から、血の混じったような声がた。「どうして伯母さんが、ここにいるの? そのおは、何?」
伯母は顔を覆い、しゃくりあげるように泣き始めた。
「ごめんね、真奈美……本当にごめんね……。でもね、条の奥様からお話をいただいたのよ。あなたが……あなたが裏でお受験のためにサラから何百万円も借をして、修平さんの学にまで取りてが来てるって……」
「嘘よ!」私はを乗りし、声で、だが激しく叫んだ。「そんな借、円もしてない! 全部あのたちが仕組んだ嘘よ!」