"消された母親の席" 第14話
藤先輩からだった。
「もしもし、先輩……!」
『真奈美か! 無事か? 今どこにいる!』
「逃げました……! 実印は取り返しました! でも、連は本気です……私の伯母まで巻き込んで……」
『御殿の件だ、真奈美』
先輩の声のトーンが、極限までくなっていた。
『さっき、慶の理事会筋から裏が取れた。「希望の」の正体がわかったぞ』
「どんな……所なんですか?」
『無認の精神科療養施設だ。表向きは齢者のリゾートケアを謳っているが、実態は違法な薬物投与と拘禁で、寄りのない老や、名が世に隠したい「厄介者」を隔するための現代の座敷牢だ。経営者は暴力団のフロント企業でね、来週のに、県警と労省の同入れが入って制閉鎖されることが内定している』
背筋に、氷の柱が突き刺さったような悪寒がった。
「そこに……修平は誰を預けているの?」
『佐久由紀。歳』
先輩が告げた名に、私の呼吸が止まる。
『条綾の、歳の異母姉だ。まで、条グループの継者だった女性だよ』
「異母姉……?」
『、条の所する箱根の別荘で、乗用の転落事故があった。由紀氏は命を取り留めたが、脳にい障害を負い、半随になった。事故処理を担当したのが、当慶の事務になりたてだった修平の父親——おのくなった舅だ』
舅が……?
『由紀氏が表台から消えた直、綾が条の全権を掌握し、修平は慶の専任教諭として破格の待遇で迎え入れられた。
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そして由紀氏は「希望の」の病棟に、面会謝絶のまま問、幽閉され続けている』
ので、巨な悪のが、気な全貌を現し始めていた。
事故ではない。 のあの転落は、綾と修平が仕組んだ、計画な殺未遂だったのだ。
そして今、「希望の」が閉鎖されることで、き証である由紀氏が世に放りされそうになっている。 別の施設へ彼女を移送し、ぬまでを封じ続けるために、千万円という莫な裏がどうしても必なのだ。 そののどころこそが、慶の推薦枠を餌にした、条の資産の横領であり、その隠れ蓑として葵が使われようとしている。
「先輩……」
私の声から、震えが消えていた。 自分でも驚くほど、たく、澄み切った声だった。
「私、今から御殿へきます」
『正気か!? あそこは暴力団が管理しているような危険な所だぞ! 女でってどうにかなる相じゃない!』
「由紀さんに会わなければ、この悪は終わりません。あのが番恐れているのは、法な続きじゃない。の罪が、のに晒されることです」
「真奈美!」
「葵を……私の娘を取り戻すためなら、獄にだってきます」
通話を切り、私はスマートフォンの源を落とした。 位置報を辿られないためだ。
個をて、駅のレンタカーのカウンターへ向かう。
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財布のには、先ほど修平の部の庫から抜き取ってきた、修平名義のキャッシュカードと、父の形見の真鍮の鍵。
はいつのにか、霙(みぞれ)へと変わっていた。 凍りつくようなの空の、私は名速をへと向かってをらせた。
*
御殿のインターチェンジをりたのは、午を回った頃だった。 富士の裾野を覆ういと、い茂る鬱蒼とした杉林。 ヘッドライトのが、舗装の剥がれた曲がりくねったを頼りなく照らしていた。
カーナビの案内が途切れた林の終点に、その建物はあった。
『希望の』
錆び果てた鉄の扉の奥に聳えつ、鉄筋コンクリート階建ての無質な病棟。 壁には黒ずんだカビがい回り、窓という窓にはすべて、刑務所のような太い鉄格子が嵌められていた。敷の片隅には、すでに閉鎖の準備なのか、産業廃棄物のコンテナがうずく積まれている。
を杉林のにめ、私はエンジンを切った。 静寂が、を圧する。
通用へ回ると、勝の軒で、を着た若い男が、背を丸めて煙を吸っていた。無精髭をやし、酷く充血した目でスマートフォンの画面を眺めている。
私は音を忍ばせてづき、コートのポケットから、宿のATMでろしてきたばかりの現万円を差しした。