"消された母親の席" 第19話
『任せろ』藤先輩のく、鋭い声が響いた。『文科省の記者クラブにいる同期と、慶の規審査委員に連絡をつける。証拠の音声データが届き次第、逃げをすべて塞ぐ筈をえておく』
計の針は、夜零を回っていた。 決戦のは、もう始まっていた。
*
翌、の午。
私は御殿の「希望の」からキロほどれた、杉林の林にレンタカーをめていた。 昨夜からのは止み、鉛のいの隙から、え切ったの差しがわずかに差し込んでいる。
助席には、藤先輩の事務所から借りてきた性能のノイズキャンセリングヘッドフォンと、予備のスマートフォン。
バックミラーに、見慣れたが映った。 条綾のマットブラックのカイエンだ。 濡れた未舗装のを、をねげながら猛スピードで駆け抜けていく。 助席には、仕ての良いグレーのコートを着た修平の横顔が見えた。
「ったわね……」
私は息を殺し、のシートにを沈めた。
分。 林のから、を着た若い見張りの男が、周囲を警戒しながらりで私のへとづいてきた。 昨、万円を受け取った男だ。
男は助席の窓を回、軽くノックした。 私が窓を数センチげると、男は無言のまま、のひらに握りしめていた黒い型レコーダーを差ししてきた。
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裏面には、私が貼った黒いガムテープの残骸がついている。
「約束通り、回収してきましたよ。施設にも、あのにも絶対に見られていません」
私は用していた最の報酬——茶封筒に入った現万円を渡した。 男はそれを受け取ると、度も振り返ることなく、にの残るへと消えていった。
内に、再び静寂が戻った。
私の臓は、鐘のように打っていた。 え切った指先で、レコーダーのイヤホンジャックにコードを差し込み、再ボタンを押した。
サーッ……という微かなホワイトノイズ。 続いて、い鉄扉が乱暴にけ放たれる乾いた音が響いた。
録音データのタイムスタンプは、午分。
『——久しぶりね、お姉様。随分とみすぼらしいお姿になられて』
ヘッドフォンから鼓膜へび込んできたのは、条綾の、どこまでも酷で愉悦に満ちた声だった。
『……綾……修平……』由紀さんの、掠れた声。
『今がこの部での最の面会よ。の朝番で、あなたには形のさらに奥にある、無認の特別施設へ移ってもらうわ。そこなら窓もないし、部との通信設備も切ない。あなたがぬまで、誰もあなたのに気づくことはないわ』
カサリ、とい封筒がテーブルに叩きつけられる音がした。
『ほら、付けの百万よ。あのバカな真奈美が必に貯め込んでいた教育資と、修平の座の残を全部かき集めてやったわ。
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あの女、昨アパートで喚き散らしていたけれど、結局は葵の親権を諦めて、今夜泣きながら実印を持ってくるそうよ』
続いて、修平の軽蔑に満ちた笑い声がなった。
『真奈美は最初から最まで、ただのピエロでしたよ。、の子ともらずにをすするいで葵を育ててくれた。おかげで慶の推薦枠に必な「健全な庭の母親」という隠れ蓑は完璧に能した。今夜のレセプションで親権変更の公正証を突きつけて、すべて終わりです。あの女には、円の慰謝料も払わずに追いしてやりますよ』
『ふふっ、本当に笑えるわね』綾さんの甲い忍び笑い。『自分の産んだ赤ん坊が、の事故の報復として、とっくに息絶えていたこともらずにね。お姉様、あなたのせいでんだのよ、あの赤ん坊は。あなたが素直に財産を私に譲っていれば、誰も幸にならずに済んだのに』
『悪魔……! あんたたちとも、の皮を被った悪魔よ……!』由紀さんの痛な叫び。
『ええ、悪魔で結構よ。勝てば官軍なの。の箱根の事故も、の赤ん坊のすり替えも、すべての証拠は今夜、慶の庫のでになるわ。私たちは慶の頂点にち、葵を跡取りにして、完璧なを歩むの。あなたはそこで、たいコンクリートを舐めながら、孤独に野垂れになさい』
カツ、カツ、と鋭いヒールの音がざかり、鉄扉がバタンと閉まるい音。