"消された母親の席" 第21話
黒の警備員が、私の方へ向かってに駆け寄ってくる。
会の母親たちから、鳴と嘲笑が混ざりったざわめきががった。 『まあ、何なのあの……』 『相沢先のところの奥様よ、本当にみっともない……』 『子供をあんな所に連れ回すなんて、虐待じゃないの?』
「寄るな!」
私の鋭いが、宴会の空気を切り裂いた。
私はコートの内ポケットから、藤先輩から渡されていた慶理事会の『特別監査令状』の写しをく掲げた。 警備員たちのが、ピタリと止まる。
「慶理事会・規審査委員の承認のもと、私は発言の権利を持っています」
私は葵のを引いたまま、赤絨毯の通を堂々と歩みめた。 段、また段と、壇のへとづいていく。
「真奈美、やめろ!」修平が壇から駆けりてこようとした。「正気か! ここをどこだとっている! おの妄で、慶の歴史を汚す気か!」
「妄?」
私はを止め、たい目で夫を見げた。 そして、バッグから取りしたスマートフォンを、会の音響卓に接続されたワイヤレス送信用レシーバーの端子へと、迷いなく押し込んだ。
藤先輩の配により、ホテルの音響システムはすでに私の端末と同期されていた。
「条綾さん。そして相沢修平さん」
私の声が、会のスピーカーを通じて、々しく響き渡った。
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「あなた方が、に閉じ込めてきた佐久由紀さんの声です。そして、今の午分、あなた方が自らので語った、完璧なの種かしです」
「やめなさい……! やめろぉっ!」
綾さんがドレスの裾を振り乱し、壇から叫んだ。 修平が私にびかかろうとした瞬、方の扉から入ってきた藤先輩との私警察官が、修平の腕を背から力任せに取り押さえた。
私は画面の再ボタンを、親指でくタップした。
最音量に設定されたスマートフォンの力が、帝国ホテルの巨なスピーカーを震わせた。
ザザッ……といういノイズの。
宴会の隅々まで、井のシャンデリアをビリビリと共振させるほどの圧倒な音量で、条綾のあの残虐な肉声が、完璧なクリアさで炸裂した。
『——付けの百万よ。あのバカな真奈美が必に貯め込んでいた教育資と、修平の座の残を全部かき集めてやったわ。あの女、昨アパートで喚き散らしていたけれど、結局は葵の親権を諦めて、今夜泣きながら実印を持ってくるそうよ』
会の空気が、完全に凍結した。 理事のから、ワイングラスが滑り落ちそうになる。
音声は、容赦なく続いた。修平の、嘲笑に満ちた声が会を満たす。
『真奈美は最初から最まで、ただのピエロでしたよ。
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、の子ともらずにをすするいで葵を育ててくれた。おかげで慶の推薦枠に必な「健全な庭の母親」という隠れ蓑は完璧に能した——』
『ふふっ、本当に笑えるわね。自分の産んだ赤ん坊が、の事故の報復として、とっくに息絶えていたこともらずにね。お姉様、あなたのせいでんだのよ、あの赤ん坊は——』
『の箱根の事故も、の赤ん坊のすり替えも、すべての証拠は今夜、慶の庫のでになるわ——』
音が、止まった。
百を超える席者が集まる広は、まるで全員が即したかのように、凄惨な静寂に包まれていた。
母親たちの顔から血の気が完全に引き、誰もが息をすることすら忘れ、壇の女を凝していた。 さっきまで彼女を称賛していた理事たちの目は、汚物を見るような、酷で絶対な拒絶のへと変わっていた。
「あ……あ、あ……」
条綾は、マイクを握ったまま、壇でガタガタと震えていた。 その唇はに変し、完璧にセットされていた髪が、や汗で額に張り付いている。
彼女の指先から、掲げられていた最級のシャンパングラスが、力なく滑り落ちた。
パリンッ!
甲い破裂音が、静寂を切り裂いた。
の絨毯のに、砕け散ったクリスタルの破片がび散り、黄のシャンパンが、まるで吐きされた血のように、黒々と染みを広げていった。
壇の、その無残な破片の真んで、条綾は膝から崩れ落ちた。