"消された母親の席" 第26話
「ママ! 見て、桜が咲いてる!」
ベランダから、ランドセルを背負った葵が駆け込んできた。 背には、所の文具で葵自が選んだ、鮮やかな赤のランドセル。 の留め具が、の陽を浴びてキラキラと輝いている。
葵の笑顔には、かつての顔を窺い、名のお受験に怯えていたは、微も残っていなかった。
ふと、卓の端に置かれた冊のノートに目が留まった。 紺の布カバーがかけられた、文庫本サイズの古い計簿。
かつて、修平に奪われた活費の赤字や、綾さんから命じられた理尽な支払いの記録で埋め尽くされていた、あの獄の帳。
私は引きしから本の万を取りし、しくいたのページに向かった。 過の屈辱の記録は、すべてカッターで綺麗に切り落としてあった。 今、そこに並んでいるのは、柔らかなの差しのような、私たちのしい々の予定だった。
。葵の学入学式。れ。お弁当は唐揚げ。 。昂くんと緒に、岸公園へ潮干狩り。靴を買うこと。 。由紀さんのリハビリ記。みんなですき焼き。
奪われた額の記録ではない。 誰かに脅し取られたの記録でもない。 これから私たちが、自分たちので歩み、積みねていく、ささやかで揺るぎない、本物の族の跡。
「ママ、くこう! のでお写真撮るんでしょう?」
葵が私のを引っ張った。 温かく、しだけ汗ばんだ、さなのひら。
「ええ、今くわ」
私は帳を静かに閉じ、エプロンをした。 窓のでは、満の桜の枝が、の確かなに吹かれて、柔らかく揺れていた。